2011年09月24日

7章2幕「緑のフード」小説ボイスマン

7章2幕「緑のフード」小説ボイスマン

※実在する人物に対する誹謗中傷禁止です。守れる人だけ読んでください。ハーフフィクションです。

夜は長いようで短い。
今日は週末で学校はもちろん月曜日まで休みだ。
しかし受験生は違う。週末も戦いは続く。
「・・・」
外は大雨。傘を差しても足元は濡れるだろう。
本を閉じると 小さなため息をこぼす。
「・・・雨」
頭の中をすっきりさせよう。
クローゼットの中から緑色のパーカーを探す。
「・・・」
背丈より少し小さめの鏡の前に立つ。
全身が写るようにいつもの位置まで下がる。
「・・・」
部屋のドアを開けゆっくりと音も少なめに玄関へ向かう。
それに気がついたアイツがいつものように一人で騒ぎたてる。
「こんな天気にどこ行くの!まったく!もうすぐ受験でしょ!」
「・・・すぐ戻るよ」
呟く程の小さな返事は、アイツの声にかき消された。
「さてと・・・」
フードを頭にかぶり顔を隠す。
黒い特徴の無い傘を取り、ドアを開けて黒と青の雨の世界へ。

「緑のフードの通り魔」
そんな噂が流れているようだ。

きっと半年程前、公園で人を二人殴り倒したのがそもそもの発端だ。
理由は忘れた。それから噂は形を変えて俺は通り魔ではないが通り魔らしい。

「・・・」

細かいことは知らないが、細かく確認を取ることはすなわち証拠を残してしまうことになるのであまり調べることはしていない。
ネットや噂でたまに検索したり耳にする程度だ。
そこでその噂に近い形でそこで「噂」を演じてみることにした。
緑のフード・・たくさんの流行服が溢れているから正直「緑」それだけでは見つかることはまずない。
そこで噂と違う行動をすることは「世界を創っている神」の挑戦状に負けたようなそんな気分になった。
噂が立っているのが「緑のフード」だとしたらそれは紛れもない「俺」なのだから。
変な自己確立だと思いながらも、それらの他の思考の選択肢の扉を閉めていく。

「ダイさ〜ん!ケンセーさ〜ん!ヒロさ〜ん!今日は楽しかったです!またLIVEしましょう!」
ペコリと頭を下げてそそくさと折りたたみ傘で雨の中走っていくユキチ。
「おい!雨降っているし送るよ!」ダイが呼び止める。
「大丈夫で〜す。今日はこれからすぐそこで女子会があるので!ありがとうございま〜す!」ユキチは雨の中、大声で返事をする。
さすがボーカルだ。声が雨に負けないように透ってくる。
「気をつけて〜!」KenSeが手を振る。
「お疲れさまでーす!」ユキチは笑顔で手を振る。

「急がなきゃ。雨、雨!」ふと人とすれ違う。
(身長デカッ)傘を思わず上げ目で追う。
振り返ると 緑のパーカーの細いラインの男性だ。
顔が小さくて西洋風イケメンだったりして〜。そう想像してしまう程スタイルがいい。
ユキチの中で日本人じゃないのかな?一瞬疑問が湧いたがその疑問は日常の景色の中に消えていき足早に友人達の待つ居酒屋へと急いだ。

ラジオ番組「ボイスマン」の「噂の掲示板」に書き込みが入った。
第2の犠牲者はビーチで発見された。男性2人。重症。

件名「緑の悪魔の愚かな人類への断罪」
posted by 麦畑 音子(むぎはた ねこ) at 00:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年02月14日

7章1幕「開幕」小説「ボイスマン」

小説「ボイスマン」7章〜1幕「開幕」
お断り※この話はフィクションです。現実世界での人に対しての誹謗中傷は一切お断りです。そのマナーが守れない人は読むのを禁じます。(麦畑 音子(むぎはた ねこ))

RURURU・・・遠い所から鳴るような音がだんだん近づいてくる。
時計のアラームの音だ。 
「んっ・・」
DAIは手を伸ばしアラームを止める。そのまま鷲掴みにして右手で目ざまし時計を引き寄せる。眉間にシワを寄せ片目で表示板を凝視する。
揺れる表示板にはAM8:00と表示されている。
目覚ましを戻し、仰向けになり一度身体をベッドの上で背伸びをする。
ふぅーと深いため息をすると ベッドの上で白い天井を見つめる。見つめるというより
横たわっている視線の先に天井が入ってくるという感じだが
徐々に神経が繋がるように意識が身体の中で泳ぎだす。どこからか聞こえてきている鳥の声が耳に届く。
8時ということは昨夜のイベントが終わり 夜中の3時過ぎに家に着いたから約5時間ほどの睡眠ということになる。
木漏れ日の光が柔らかく部屋に朝を告げる。この雰囲気が好きだ。
「起きるか・・・」独り言を言うとトースターにパンをセットし、冷めたカップにゆっくりとコーヒーを・・・入れている最中に。
メールの音が優しく部屋の中に響く。枕の近くのナイトテーブルの上で携帯が点滅している。
上ふたつボタンを止められてないパジャマ姿で頭を書きながら携帯のディスプレイに視線を落とす。
「おはようございます。昨日はお疲れ様でした。楽しかったです。またイベントよろしくお願いします♪では仕事に行ってきますのじゃ。ユキチ」
ユキチはもちろんステージネームで、昨夜の音楽イベント「バーサク2」に出演していたバンドの女性ボーカリストだ。
「おぅ。いってらっしゃい。昨日は楽しかったね。歌っている姿、かっこよかったよ DAI」
送信ボタンを押し携帯のスケジュールを開く
今日は午前中は予定が無い。夕方から沖縄インディーズの展開でライブハウスのマスター達との集まりがある。
・・・
・・・
・・・あっ!!
今日は朝っぱらから、Stray DogのベースのKenSE(ケンセー)とGANTZ(ガンツ)を見に行く約束をしていたんだ。
そうだった。そうだった。
確か10時に迎えに来てくれるんだっけ。
トースターの焼けた音がチンと鳴り、DAIは香ばしい匂いに朝の時間を楽しみながら準備をし始めた。

「うるせえ!」
玄関のドアを開けると同時に恐(キョウ)はハンドバックを地面に投げつけた。
「帰れ」
「でも、恐!・・・」
「おれは今から出かけるんだ。お前を部屋に住まわすつもりはねぇ」
「でも、私達・・・」女の眼は少し潤んでいる。
「・・・」
バタン!ドアが閉まる。
「恐!恐!ってば!」
女が叫ぶ。
ドガァン!内側からドアを思いっきり蹴る轟音が響く。
沈黙。
ドアの鍵は閉まっていないだろう。
しかし、目の前のドアを開けるには・・・・勇気がいる。
女は下を向いたまましばらく立ち尽くしていた。
「・・・許さない」
女はボソリと怒りを吐き出すとゆっくりとアパートを後にした。

「おいおい、ゲリラ豪雨か。マジかよ。傘、車の中だぜ」
映画館から外に出てすぐのところで、
KenSEが眼鏡に雨がかからないように手のひらで眼鏡の上に雨よけを作りながら呟く。
「映画見て、別世界に行って、出てきたら今度は大雨・・・朝とはまるで別世界で、まだ13時。一日はまだ続く。変な感じだ」
「そうだDAI 19日のチケット渡してなかったな。場所はいつものコザロックシアター」
「loop line vol.18 〜2days〜」
2/19(Sat)
開場/18:30 開演/19:00
前売/700円 当日/1000円(ドリンク別途)
出演/
Stray Dog
あんみつ
8mm Black Marlbolo Gold
345
クリティカルヒット 出演
もはやKenSEの眼鏡は雨に濡れまくりで手の平の屋根の意味はない。
「映画館沿いのすぐ横のカフェで雨宿りがてら昼飯しないか」
DAIの提案にKenSEの足はカフェ側に既に移動しながら返事をしていた。
「ラジャー」

時刻は20:40
「竜一の野郎。ライブのミーティングに来ねえとは舐めやがって」
止まない雨の中、恐は傘を差しながらダルそうに歩きだす。
恐のアパートはホームのライブハウスから近い。
付け加えておくが、結成してほとんどミーティングを欠席する恐に、自分が出席した時だけ偉そうにされる筋合いは正直無い。
しかしデタラメな恐にはフロントマンとしてのカリスマ性がある。それがバンドを支えているのはバンドメンバーは理解している。
ライブハウスの近くにある公園の傍の道路を横切る。
・・・
ここから公園を反対側に竜一がバイクを停める駐車場があったな。
・・・
恐の野性(?)の感が騒ぐ。
公園内に視線を向ける。公園内は雨に遮られはいるが明かりがぼやけて見える。
その下で光が揺れた。
人がいる。そう気付くと恐は公園の中に方向を変えた。
・・・
公園の明かりの元へ向かう。やはり誰かいる。
雨の中で立っている緑のフード被った人物。やや後ろ側と雨で顔がはっきり見えない。そいつはまじまじと己の手の平を見つめている。
背中にはESP Horizonのソフトケースを背負っているようだ。ロゴが何となく見える。
あれは竜一?仕草が一瞬迷いを走らせたが、いや違う。
竜一じゃない。
だがケースは竜一のメーカーと同じメーカーだ。
普段メンバーのケースに意識を払ったことは無いので確信は無いが。確かESPだった。買った時に竜一が嬉しそうに見せていたのを覚えている。
暗闇に気配を向ける。
木のベンチに両腕を背もたれに広げてかけて座っている奴がいた。
瞬間的に殺気を送る。
そいつは・・・竜一だった。
しかし顔は下を向いたままだ。よく見るとシャツには血痕が残っている。
こいつが背負っているのは竜一のベースか。
恐の手の甲に血管がはっきりと浮かび上がる。
ミュージシャン狩り?
恐にとって「狩り」などどうでもいい。
竜一というのが問題なのだ。
・・・
・・・手を見つめ続けているそいつは微動だにしない。
―――
極小の散弾のような雨はその音を増圧し、夜の闇と共に公園と外界をさらに分断する。
次の日の雨上がりの朝方、救急車のサイレンの音が公園近くに響き渡った。
公園の土に横たわる恐とベンチで意識を失っている竜一が緊急病院へと移送された。
posted by 麦畑 音子(むぎはた ねこ) at 00:15| Comment(7) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年10月11日

6章8幕「客」小説「ボイスマン」

6章8幕「客」小説「ボイスマン」
※実在する人物に対する誹謗中傷禁止です。守れる人だけ読んでください。6章では『』は外国語という読み方で、よろしくお願いします。


『さてと婆さん 石を渡してくださいよ 空真石』
ミッドラル少佐は魔方陣から現れた現代兵器に乗り込んだ。
姿はガンダムの剥き出し版のような人型プロトタイプロボットだ。
ヘルメットを被りながら拡声器で話す。
『話せることくらいは知ってますよ』
「・・・」
『婆さん以外いないって聞いているがそれは嘘だろ?この山一帯は全部、我が部隊が制圧してある仲間が隠れていても無意味だ。さっさと石をよこせ』
ミッドラル少佐の口調がやや乱暴になった。
観音婆は黙したままだ。
闇は微かに聞こえる機械音と森が茂り揺れる葉の音を飲み込んでいく。
「客人。この建物にいるのは 今は私一人 何故だと思う?」
観音婆は独り言のように呟いた。
『ハァ?』
無論ミッドラル少佐に聞こえるはずは無い。
キュイイイイイン。何かのモーターの回転音上がる。
『全部壊して全部回収するさ 見つからなかったらそれはそれでいい 婆さんには時間は与えない 裏世界で有名って事は、何が出てくるのかわかったもんじゃないからな』
そう話し終える間もなくミッドラル少佐は小型ミサイルを2発 発射した。
山を揺らすような轟音が当たり数キロに広がり山の頂上を包み込む。
爆風が観音婆近辺数メートル以外の木々や建物を吹き飛ばす。

同時にミッドラル少佐の兵器からは地面に沿って電磁波が流れる。これで周りの生き物は瞬殺。
ミッドラル少佐はニヤリと笑う。山上部辺りに方位させている部下どもなんか知ったことか。
結界が電磁波を弾く。バチバチと光の繊維が結界上にに沿って走る。
同時に少佐の兵器の足の部分からは毒ガスを流し始めた。
『これは現代科学兵器の結晶 これを作ったガキは今頃カンカンだろうな』
ミッドラル少佐は段々自分の中で血流が上がっているのがわかる。
これだから戦争は止められねぇ。これだから戦争は楽しい。
『平和なんてクソ食らえだ TAAもクソ食らえだ!楽しければいいんだ。力があるものが勝つんだ。ハハハ』

観音婆はミッドラル少佐のその暑っ苦しい感情を優しく受け流しながら「守」の結界を張った。
電磁波の攻撃は長期戦は面倒くさいから、サッサと終わらせてTAAを強請(ゆす)ってやろう。
観音婆は両手をミッドラル少佐に向けた。
ミサイルをまともに飛ばして立っている人間にミッドラル少佐は少々ギョッとしたが、その予想も頭の片隅にもあった。
我らがTAAが動く時の相手は、どこか尋常ではないことは知っているからだ。
『いやー どうやったが知らんが凄い婆だ。ミサイルはじくとは、もはや人間じゃねえな。殺しがいがあるってもんだ』
ミッドラル少佐は楽しそうに笑みをこぼした。
「こんなに長く生きてくると・・・こんな婆さんにだって隠し事が一つや二つあるのさ」
僅かに開いた観音婆の口の歯の隙間から蒼い光が漏れた。

「・・・あら」
「珍しい客が今日は来たもんだ」

山全体を包む「感」の念が反応する。
婆さんは白煙の隙間から空を見上げた。
ミッドラル少佐は煙の隙間に見える観音婆のその仕草に踊らされることはない。
ここには観音婆以外には誰もいない。

フッ
風を切る大きな音がして 次の瞬間ミッドラル少佐が見たものは、
雲を突き抜けて浮かぶ逆さまの大きな「月」だった。
『なっ?』
「キンキン不愉快な音を鳴らしているのは貴様か!!」
−−−ベルゼブブ−−−
ベルゼブブはミッドラル少佐の兵器の足となる部分を爪の先を器用に刺し絡め、一気に上空へ舞い上がったのだ。
そして重力と己の全力のスピードで下に堕ちる。いや地面に向かって一直線に飛ぶ。

「あああーーー」
ミッドラル少佐は急にかかるG(重力)と訳のわからない視界。何もできない。

ゴギョ!!聞いたことの無い様な土との激突音が聞こえた。
その後、山を一瞬揺らして、地面に開いた小さな穴から炎の柱が噴出し、それは10秒ほどして白煙に変わった。

「随分と久しぶりじゃないか。どうしてこっちにいるんだい?」
山に乗りかかるような巨大な身体。
「ベリアルとバンシーのババアのせいでな。こっちにお世話になることにしたんだ」
ベルゼブブは久しぶりの仲間に会うような口ぶりで観音婆の問いに嬉しそうに答えた。
「バンシーね・・・」
心の中で溜息をつく。

淳次は魔方陣を開放し一気に山を下る。長い階段を振り返りもせず。息も吸うこともせず短距離のような降り方だ。
「何が起こっているかは俺には関係な・い・ん・だよっと」
慣れた足つきで山を駆け下りた。
部隊の奴らがもっといるかと思ったんだが、2人しか邪魔しなかったな?どうしたんだ?」
安全な田んぼの辺りまでたどり着くと、一瞬山の上を振り向く。
「何だ、あれは?」黒い影が山の上にある。
本能的にゾクッと寒気を覚えた淳次は逃走用の仲間が待っている場所まで全力で走り出す。
「関わるな。振り向くな。余計なことは何も考えるな」
誰もいない村の逃走ルートを淳次は予定通り駆け抜けて夜の闇に消えた。

「それは困る、帰るか別の所に行っておくれよ」
あっけらかんと観音婆はベルゼブブに言い放った。間髪空けずに続ける
「あんた、まさかあの化物虫共全部連れてきたんじゃあるまいね?」
「グハハハ。小さな事は気にすんな。姉さん。別にここは誰のもんでも無いだろうに。仲良くいこうじゃないか」
ベルゼブブはやはり楽しそうに笑った。
「駄目だ。すぐに帰ってくれ。その代わりにバンシーの婆の呪いを私が必ず解く。約束しよう」
ベルゼブブの身体が一瞬揺れた。
「・・・しかしそう言われても、帰り道が無い、バンシーに嵌(は)められた」
ベルゼブブは山の一部を座りやすそうに潰して座る。
「私が帰り道は繋ごう、話の通じるあんたは別としても仲間は駄目だ。どうにかしてくれ」
「俺の言うことを素直に聞く奴らかよ。あっちにはもう飯がないんだ」
ベルゼブブの一味は地獄にいる餓鬼のようにひたすらに食べ続けるのだ。
仲間同士ですら。
「どうしてもすぐにか」
ベルゼブブが言いかけている途中に
「すぐにだ」
観音婆は即答した。
「わかった」
ベルゼブブは即答した。
予想以上の即答に、念の為、観音婆は確認する。
「ベルゼブブ、どうするのだ?」
こいつの中にはもう呪いを解いてもらうことしか考えていないようだ。
ベルゼブブは嬉しそうに答えた。
「全員収集をかけておれが全部食べる、無理な分は舞い散らす」
共食いか。化物昆虫らしい発想だ。
考え方まで昆虫になったのか。お前は。
観音婆は感嘆と呆れが混じった小さな溜息をついた。

話はまとまった。

昆虫はベルゼブブが処分。ベルゼブブの呪いをその後に観音婆が解く。
ベルゼブブがすぐに収集をかけるが、それでも食べるのに夢中になってベルゼブブの収集に従わない、気がつかない奴らは観音婆の部隊に動いて確実に全処理。

決まりだ。

「!」
観音婆が振り向く。やれやれ今日は色んなことが起きる。小さな溜息をつく。
さっきの軍人の兵器の爆発の影響か。
今日はやけに溜息をつく。
歳なのか?
「山の下にも何か飼っているのか。にぎやかだな?」
ベルゼブブも気がついたようだ。
やはりコイツは勘がいい。
「何でもないわ、ベルゼブブ。さっき決めた通りにしましょう。終わったら場所はここじゃなく、日本の最北端、北海道にきてちょうだい」
「・・・わかった」
ベルゼブブは山の中には興味を示さず、低い声で返事をすると、瞬く間もない速度で消え去った。
「さて、朝までに終わらせるか。根の国の者。あなたたちもここに居る場所なんて無いの」
観音婆は口を開いた。蒼い光が口から漏れる。
「空真石は・・・」
ユラユラと蒼い光が観音婆の身体を包む。
「私の中に」
地面から闇から闇から生物が現れる。青の塊はそれを草を刈るように闇の中に進んでいった。

3日後、観音婆から退避命令を受けていた住民は戻ってきて皆、驚きの声を上げた。
山の半分が欠け、寺が跡形を残ら無い程、瓦礫の山になっていた。
観音婆に親しみ慣れていた住民が心配したが、引っ越したとだけ説明を受け、それからこの土地で観音婆の姿を見た者は誰もいなかった。

世界各地で急激に発生した惨殺事件は1ヶ月程で起こらなくなった。
捕獲され屍骸となった巨大昆虫は全て警察に回収され、温暖化における突然変異だとニュースで大々的に発表された。

カラカラカラ 頭の中で 転がる音がするよ
ギャリギャリギャリ ほら すぐ傍で 何かが回っているよ
ケラケラケラ 真横で 笑い声がする
ギャリギャリギャリ 目の前で 全てが繋がっていく


新章へ続く→ 






posted by 麦畑 音子(むぎはた ねこ) at 23:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年09月06日

6章7幕「RED」小説「ボイスマン」

6章7幕「RED」小説「ボイスマン」

※実在する人物に対する誹謗中傷禁止です。守れる人だけ読んでください。6章では『』は外国語という読み方で、よろしくお願いします。

本山。
午後6時3分。1時間強程の雑談と交渉の後。
「わかりました」
淳次は小さなため息をすると席を立つ。
バスケットシューズの紐をしっかりと結ぶ。
広い庭へ歩きだす。
この瞬間が何だか一番緊張する。
観音婆とミッドラル少佐の視線を背中に感じながら。
淳次は振り返り、掌を合わせる。
「お話はもう結構です」

「おい!せっかく音源持ってきたんだから並べてくれよ!」
俺様は切上智成。雪とライブハウスに来たところだ。正確には玄関口で偶然会ったマスターと外で話をしているとこだ。
ライブができないなら、せめて営業をしようと思う。ライブハウスのわからずや頭でっかちマスターに交渉している。
「カーネル新曲「WORLD END」かっこいい曲なんだよ!頼むよ。30枚置いていてくれよ!ホームページアドレス書いた紙も挟んであるし!頼むよ!結成したてなんだよ!http://ip.tosp.co.jp/i.asp?i=manybrown&P=0&MD=I
マスターは覇気のない顔で首を横にふる。昆虫騒ぎで疲れているのだろう。
でもそんなのは関係ない!
「まずは10枚だ。売れたらまた持ってきてくれ」
「あっという間に無くなるって!なら試しに今聴いてみてくれよ!」「30枚は多すぎだ」
横ではクレープをかじりながら、雪が知らない世界を見るような顔で俺らのやり取りを見ている。
召喚の修行ばかりしている雪にとっては珍しいに違いない。気がつけば1時間近く話しているかもしれない。
しかし、俺様は根負けなどせん!
「あ!」
雪が大きな声をあげた。俺様とマスターは同時に雪の方向を向いた。
バケモノサイズの昆虫が路地の向こう側にいた。

「ハハハ!」淳次のその笑い声と同時に、ミッドラル少佐が瞬く間もなく庭に飛び出す。
闇夜に一瞬にして淳次の掌から紅い光が放射する。
一瞬にして魔法陣が縦に発生する。
同時に地面に魔法陣が浮かび上がり淳次の3m上空辺りまで円柱状に包む。
「ミッドラルさん、後は任せましたよ」
淳次は合わせた掌を放すと全力で階段に向かって駆け出した。
俺の仕事はここまでだ。
『誰も生かしておかないよ』
ミッドラルはそう小さく呟くと魔法陣から現れたそいつに乗り込んだ。
「へぇ」
観音婆は座敷に座ったまま、かわいい声をあげた。


posted by 麦畑 音子(むぎはた ねこ) at 02:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年08月16日

6章6幕「人間」小説ボイスマン

6章6幕「人間」小説ボイスマン

ハーフフィクションです。
現実世界の方への誹謗中傷はお断りです。

※お願い
6章は『』は外国語全般
「」は日本語という解釈でお読みください。

淳次はワンボックスの車を飛ばす。
年式もので中古だ。もちろん名義は知らない。
用意されたものだ。不要なことは喋らない。
それは常識だ。それは自然に身についた。
しかし黙っているだけでは情報は手に入らない。
ミッドラル少佐との簡単なお喋りは続く。
高速でETCを使い降りる。ミッドラルは興味のない感じで空を見ている。
夕方前には着くな。やや空は曇り始めている。
予定より早く着いてしまった。淳次は少しだけ汗が頬を伝った。
自然を装うように窓を開ける。
『イギリスって暑いんですか?』
・・・後ろ座席からは返事が戻ってこない。
集中しているのか。バックミラーをチラッと覗く。
ミッドラル少佐は目を瞑って腕を組んでいる。
空港から出発する際、相棒の増田にスイッチを入れた。
早めに予定が進んだ場合の保険も考えてある。
常識だ。
「本山」まで予定の時間を考えながら3時間。
上手に運ばないと。下手なことに巻き込まれないように。
約3時間後。
凛とした顔つきにいでたち。
山伏みたいな格好。
今山頂にある、「列島総本部」の寺には観音婆が一人。
正座をしてミッドラル達を待つ。
既にイギリス研究部「TAA」の責任者とやらから連絡が入っている。
今、ここ総本部には観音婆一人しかいない。
観音婆は少し遠めの階段に視線を向ける。
「ふーいぃ〜やっとこさ着いた〜なんだこの階段は〜」
山の階段側からヘロヘロと淳次の頭が見え始める。
この子が通訳の淳次さん。その後の・・・金の短髪でいかにも軍人だ。
この方がミッドラルさんね。ガタイのいい外国人。
観音婆はちょこんと立ち上がり、草履を履くと寺の玄関の付近で二人を待った。
「ようこそ。お待ちしておりました。お茶でも飲んでってくださいな。階段長くて大変だったでしょう」

・・・おれ様は智成。シャーロックが動かないので、カーネルというバンドを「健弐」という奴と組んだ。「SRH」の旗を使えないのは残念だが。
気持ちを切り替えて頑張るよと思っている。しかし!しかしだよ!諸君!先月、地下のライブハウスで惨殺事件があってからなかなかライブハウスが使わせてもらえないんだよ。その事件があった場所に関わらずだ!
オーナー側もそれでは死活問題だということで警察に抗議してるが。噂ではでかい虫が現れて人を食ってしまったとか。
オカルト専門家は国の軍事兵器だとか、宇宙からやってきたとか、温暖化による突然変異とか色々言ってるんだけど。
知らん!ライブをさせてくれ!ライブを!せっかく新曲も書いたんだよ〜。そうだそのライブハウスに行ってみるか。さすがに中には入れないだろうけど。
スカーは入院中で、健弐はバイト中か。一人で行ってみるかな。そうだ!雪を呼んでみよう。あいつ暇だろうし。
電話をかけると雪はすぐに電話に出た。
「雪?今時間あるか?」
「あるっちよ」
「散歩行かね〜か?」
「嫌っち」
「頼むよ〜クレープ食べながらでも」
「行くっち」
クレープだと即答か。
雪はクレープにはまっているらしい。しかし一人で注文するのはダメで誰かとならいいらしい。おごるわけではない。自腹だが。変なこだわりだ。
「なら2時間後にスカーの病院の近くのマクドナルドの前で。わかるよな?」
そう言うと電話を切った。さてと。着替えるとするか。

場所が変わって日本。
「イヤアアア!!」
車から飛び出した女性がその場で座り込んでいる。
ベルゼブブが道を壊して田舎の小さな無人の道路を潰している。
「たたたたああ・・ああ」
女性は恐怖のあまり言葉にならない。
当たり前の反応。何十メートルもある虫なんて。見たことない。
「食べやしねえよ」低くそして大きな声が響いた。
ベルゼブブは流暢な日本語で喋りかけた。
「お前らみたいな装飾品のちっちゃなもの食べても腹は満たされねぇ。動物園とかどっか自然がいっぱいある場所はどこだ?」
「ああわわあああ」しかし女性は軽いパニック状態だ。無理もない。
「おれは元・人間だ。だから怖がるな」真実は時に現実に勝てない。
「あわあああ」依然女性の反応は変わらない。
「ふぅ。・・・話にならんな」深い息を吐くと、しばらく女性を見つめ、ベルゼブブは自分の身体に視線を流した。
諦めたベルゼブブは女性をほっぽらかして、飛行機に限りなく近い速度でそのまま夜に紛れた。


さらに場所は遠く離れたイギリス「TAA」のSクラスの研究所。大きな円状の部屋の中央に立派なデスクが一つ。そこで少年というより子供が額を机にこすりつけながら、怒りで握りしめた手を震わせている。
『ぐぐぐぐぐぐ!何で何で。勝手に!!あれは僕が作ったものだろう。僕が乗るんだ!」子供は机にゴリゴリと額を強くこすり合わせながら呟く。
『・・・バカ共が。全員殺してやる』
漆青の目の奥で言い表せない怒りが燃えていた。
ウィーン。ドアが開く。
『失礼します クォード様・・・』
言いかけた研究者は次の瞬間、胃から下の内臓が吹きとんだ。
まるで近距離でバルカン砲を発射されたように。
ウウウウウ・・・・緊急警報と同時に部屋のドアが閉まり始める。
同時に麻酔煙のようなものが噴き出す。
クォードは自分の中で止められない怒りが倍増して叩いているのがわかる。
『ふざけるな。ふざけるな。バカ共が!』
煙はクォードを見えなくなるまで包み込んだ。

『バカどもが!貴様ら全員に今から天罰を下してやる!』
クォードの小さく高い声は研究所の部屋に鋭利に響いた。


posted by 麦畑 音子(むぎはた ねこ) at 23:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年06月29日

6章5幕「噂の婆」小説ボイスマン

6章5幕「噂の婆」小説ボイスマン
ハーフフィクションです。
現実世界の方への誹謗中傷はお断りです。

※お願い
6章は『』は外国語全般
「」は日本語と言う解釈でお読みください。

ここは東京国際空港。
遠目に、たくさんの男の姿が見える。
その中にやけに規律正しいリズムで歩いている男一人。
その男は立ち止まり通行人の邪魔にならないように携帯電話に電源を入れる。
そしてそのままボタンを触っている。
胸元に入れた携帯電話が聞き流さないようにセットした最大音で鳴り響く。
しかし空港内の雑音と混じって辺りの反応は薄い。
日本の日常で起こるいたって普通の風景。ただ携帯が鳴ったそれだけのこと。
彼−島袋淳次は携帯を取る。流暢な英語で答える。
到着口から出た、いかつい男はこちらを向くと、ものすごい形相で一定のリズムでしかし無駄のない早い動きでこっちに一直線に向かってくる。
既に尋常な直線歩きではない。淳次は後ずさりした。お・・・恐ろしい。道端でいきなりされたら全力ダッシュで逃げ出しているところだ。
あっという間にその男は近くにやってきた。その瞬間不思議なほど滑らかにそして雰囲気が変わった。こいつ只者じゃない。淳次は感じた。
『貴方が通訳の方かな』
軍人は柔らかなそして温かな口調で声をかけた。
『そうです、私が通訳です、その前に車に移動しましょう』
淳次も気を取り直し、自然としかし早々した声で答えた。
軍人−ミッドラル少佐はそれに促されるように警戒を回りに放ちつつしかし、柔らかな不思議な感じで自分より小柄で小さな日本人、淳次について行った。
188cmの身長に軍で鍛え上げた筋肉の塊の彼にとっては誰であれ小さく映るのだが。
淳次が用意した観光案内用のバスに乗り込む。客はミッドラル少佐のみ。当たり前だ。このバスはカモフラージュ用だ。
『私の仕事は神様のお婆さんと会うことだ』
軍人の人から仕事の内容を話し出すことはないと思っていた。淳次は少し戸惑って答えた。
『・・・ああ、聞いてます。神様のお婆さんですね』
淳次はその後、ハンドルを右折に切りながらにやりと笑っていた。
観音婆(かんのんばばあ)−裏の世界での有名な名だ。淳次は会ったことはないが今まで裏の通訳の仕事をしていて噂を何度か耳にしたことがある。山のてっぺんに住んでいて日本政府の守り神と呼ばれているらしい。機会があれば、一度はお目にかかりたかったとこなんだ。
『上手に通訳頼むよ』
『ミッドラルさん日本語の方は?』
『ははは、ちっともだ。体ばかり鍛えて過ごしたからな。相手を倒すのに言葉はいらない。せいぜい降参しろぐらいだ。日本ではマイッタだよな。確か』
ミッドラル少佐はごつい顔に似合わず手で短髪をガシガシ掻いた。
『通訳の方は任せといてくれ』
『話は届いているだろう』
『はい、そっちの博士から大体の内容が送られてきました。それを踏まえて交渉してみます』
『なるべくは穏便にいきたい。女性に手をあげるのは仕事とはいえ好きじゃない』
ミッドラル少佐は丸太にハンマーが付いたような大きな拳をぎゅっと自分の顔の前で握り締めた。
バックミラー越しで淳次は一瞬、後ろに座る少佐を見て、前方に注意を放ちながら言った。
『そうですよ。平和が一番ですよ』
淳次は丁寧な口調でそう答えた後、助手席に置いてあるイギリスの研究所から送られてきた紙に少しだけ目をやった。
“お人よし・・・か”心の中でため息をついた。
博士から送られてきた内容は矛盾している。つまり明らかに英語と日本語の内容が違っている。
話し合いは決裂する。穏便はない。軍人はそれを知らずして穏便を信じているのか。それとも忠誠心ゆえ、とぼけているだけで本当はそうなることを知っているのか。
それは仕事とは関係ないか。
淳次は自分のことだけを考えることにした。自分に火の粉がかからないように。
少しばかり情報も手に入れたし。
この世界で生きていくにはがっついてはいけない。
ほそぼそと進むのがいいんだ。
『ホテルまで行きますか』
『すぐ向かってくれ』
『えーと、観音婆?』
『そうだ、彼女のとこにだ』
『昼食は?』
『食べた。少し休むか?』
ミッドラルが優しく聞いた。
『・・・わかりました。すぐ行きましょう。では車を乗り換えるのでそこのホテルで降りてください』
ふう。淳次は車から降りるとため息を少しついた。
鏡のようにピカピカに光ったホテルの窓ガラスに自分の姿が映る。
やっぱ向いてないのかなぁ。通訳・・・そう思いながら車へ向かう。
新しい車に乗り込む。
『ところで通訳君』
『何です?』
『観音婆は強いのか?どんな女性だ』
『わかりません。噂では口から光を放つとか』
『ははは。レーザーを出すのか。それは手強いな』
『強いか賢いのかわかりませんが、とにかく石の守護者です。一筋縄ではいかないと思います』
『・・・』ミッドラル少佐は黙り込んだ。雰囲気が変わった。話しかけられる雰囲気ではない。
『では観音婆の所へ向かいます。ミッドラル少佐、仕事よろしくお願いします』淳次は小さな独り言のように呟いた。

某警察署。
昨夜。某高速道路。事故が起こった。その時、現場に居合わせて警察に通報した男二人組みとカップルの証言。
「俺らが事故があったんで慌てて警察に電話したんだ」
男がろれつが回らない様子で慌てて話す。
「でもそんなことよりも、空を飛んでいた、あのでかすぎの化け物をどうにかしろ!!日本は終わるぞ!!冗談じゃないって!!俺たち全員見たんだって空を覆う程のでかい化け物が西へ飛んでいったんだ!すごいスピードで嘘じゃないって!!」
男は泣きそうな顔になったり、ひとりで困ったような顔になったり。見たことが何なのかわからず混乱しているようだった。
男は警察官の胸倉をつかみかかった。
「こら!貴様障害でしょ・・」
別の警察官が取り押さえようとする前につかみかかった警察官に振り払われる。
地面に転がった男は尻餅をついた状態で署内に響き渡る声で大声で怒鳴った。
「頼むから真面目に聞け!あの化け物をどうにかしろ!!日本は終わるぞ!!」

男の悲痛な声が何度も この後飛んだ。
夜の雨はずっと 止むことなく その時間を外から眺めていた。
サヨウナラ 人類。今度は貴様らが滅びればいい。
posted by 麦畑 音子(むぎはた ねこ) at 01:41| Comment(5) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年02月15日

6章4幕「手」小説ボイスマン

ハーフフィクションです。
現実世界の方への誹謗中傷はお断りです。

6章4幕「手」小説ボイスマン

ぼんやりとした感覚でぼんやりとした中世の城のような雰囲気の中を歩く。
ここの天井は高く端々は薄暗い。
湿度も高いようだ。
風らしきものは無い。
ただただ夢のような気持ち悪い感覚が背中にへばりついている。
彼は元・画家。
いや正確には故・画家。
先日、投身自殺をした天才画家だ。
・・・
意識は届いている。
しかし何故歩いているのか、何処を歩いているのか。
それは思い出せそうもない。
身体を見ることもできない。
視界だけがその空間を描写する。
・・・?
・・・?
どれ位歩いただろう?
ぼんやりと立っている。
認識はあるが自分自身の身体を確認することはできない。
いつの間にか目の前に何かある。
何だ?
あれは?
そう思うと気がつかないうちに場内の空間は消え、目の前に何かが浮かぶ。
赤いような黒いようなそれでいて曖昧なものがいる。
目の前に。
炎?
いや違う?
ぼんやりした光?
それは徐々に巨大な化物に変化した。
画家はゆっくりと見上げた。
巨大な黒い炎の形のように見える。
その左右に二体。
向かって右手。
仁王立ちしている人間のような化物。
向かって左手。
でかい昆虫タイプ。・・・蝿?

大きさは・・・20mぐらいだろうか?
山を見るようにそれらを眺める。
しかし、それに驚かない自分がいた。
距離感がつかめない。
でかすぎる。
画家は無意識に後ろに下がった。
視界に三体のようなものが首を動かさずに納まった。
心臓はうるさくない。
ただ定期的な音が脳内に響いている。
トクントクン。

パンッ!!

大きな手を叩くような音が右手側の化物の空間からこだますと意識は冴えた。

画家は何故だか己の手を見た。
手。
私の手。
記憶を思い返す。
しばらくして顔を上げた。
目の前に巨大な化物。三体。
右の大きな仁王立ちする人型の化物。
その業炎のような威圧感のある瞳は中央の化物に向けられている。
しかもよく観察すると唇から薄ぼんやりと青白い光が漏れている。

「主よ、いかがいたしましょう?」

人型の化物がそう言った・・・ようだ。
・・・静寂があたり一面に広がる。
ただの漆黒のような時間。
中央の炎のようなものは陽炎のようにうねって、微かにくすんでその姿は完全に消えた。
画家は何が起こっているのかわからなかった。
夢の中のような不確さ。
画家の視点は巨大な蟲と人型の化物を何度も行き来する。

「私もこいつに用は無い。わかるな?ベルゼブブ」

人型の化物は巨大な蟲にそう言った。
いや正確にはそう言ったような気がした。
「わかったベリアル、私の部屋に連れて行く」
蟲がそう返した・・・ような気がした。
人の形をした化物はゆっくりと空間の中に溶けた。

ベルゼブブとベリアル。

ベルゼブブは確か蝿の王。
ベリアルは確か悪魔の何かだったような。
蟲の王は羽音を場内に響かせた。
あまりにも大きい不快音。
反射的に画家の背中に寒気が走った。
そしてはっきりとこう言った。

「人間よ」

蟲の眼は彼のどこを見ているのかわからない。
しかし身体に走る寒気は背中に走り続けている。

「・・・はぃ」

画家は小さな声で返事をした。

「手があるな」

蟲の声は何十にも聞こえて金属音のようにも聞こえる。
「話せるのですか?」
画家は少しの安堵感を覚えた。
「ここに黄泉という泉が・・・」
そう言いかけた時、節足の先の先がが右胸をズンッと貫く。
胸の服が赤い血に染まっていく。
「うっ・・う・・」
痛みはそんなには無い。
しかし声が出ない。
片肺を貫かれたか。
節足が胸から抜き取られると、羽音が複数音、場内に乱反射する。
蟲の眼には、反射して胸を押さえている自分の姿。
どんどん赤い染みは服に広がっていく。

「ベリアルなんてくそ食らえ」

大蝿は独り言を吐き出した。
ガラス張りのような眼の奥に憎悪が渦巻いているのだろうか。

毛だらけの数本の節足に抱え込まれた。
逆らうとかそんなレベルではない。
大きさが違うのだ。
画家は宙高く舞った。
黒なのか赤なのか絵の具に使ったことのある血が胸から止まらない。
鼓動がドクドクと頭の中に響く。
・・・死んだのに死んだらどうなるんだ?
ささやかな疑問が湧いた。
答えが見つかるはずもなかった。
ブブブブブブブ不快な音が耳をおかしくする。
次第に多く大きく聞こえる。
耳が麻痺してしまいそうだ。
数十秒の浮遊感の後、背中と後頭部に殴られるような鈍痛が走った。
大蝿が「私を地面に落とした」と認識するのに時間がかかった。
揺れている視界が頭の鈍痛が、血まみれの手が腕が、鋭い思考を止める。

辺りを見渡すと。部屋中、巨大な蟲だらけだ。
数はわからない。
どうやら羽根はついてないみたいだ。
地面を這っている。
何千匹だろう?
いや何万匹?
とんでもない数だということはわかった。
餌に群がるように近くの蟲達が一斉にのしかかるように、画家にまとわりつき始めた。
節足動物達の足。
足。
足。
部屋。
周り。
蟲。
蟲。
蟲。
蟲。
大きさ。
1メートル。
胸。
血。
押さえなきゃ
何処か。
何処か。
何も無い場所。
どこだ。
血。
死。
蟲。
短い言葉が頭でフラッシュする。
群がる節足達から反射的に逃げた。
とにかく背中の方向によろけた。
そこにいる様々な蟲を眼を細めながら片手で払った。
何処か
何処か。
普通の場所。
壁を目指した。
壁。
壁。
壁。

ドン!

肩に走る衝撃で壁を認識した。
壁だ。
しかし巨大蟲は押し寄せる。
壁沿いにもたれかかりながら、
左方向に意図なくよろけ進んだ。
出来る限り早く。
右手は額の前に。
血まみれの胸を左手で押さえて。
死んだことを忘れて。
どこかどこか出口はないか。
どこか。
どこか。
何十メートル進んだかわからない。
何十秒、いや何分経ったかわからない。
蟲に視界を阻まれながらも壁にもたれかかりながら進んだ。

ゴスッ!

物凄い衝突音共に、目の前が暗くなった。
何かにぶつかった。
鉄だ。
手の平2つ分位だろうか?
壁から生えている。
希望の光はすぐ認識された。
ドアだ。
ドアだ。
開けよう。
蟲の節足ではドアが開けられないのだ。
とにかく隣の部屋に。
画家はドアノブを血まみれの両手で開けた。
ドアが何故そこにあるのか考えることはなかった。
ドアを開けた。外気を吸うと同時に画家の胸に強烈な痛みが走った。
ゆっくりと消滅していく画家の魂の最後。

カラカラカラ 頭の中で 転がる音がするよ
ギャリギャリギャリ ほら・・・
懐かしい歌が脳裏を流れている狭間で画家はゆっくりと煙に変わった。
少しだけ残ったゴミのような残骸はドアの向こうの風に乗って消えてしまった。

音を立てずにドアノブと枠が青白く点灯している。
「ベリアルとバンシーのババアの仕業か。嵌(は)めやがったな。よくも俺の部屋を魔法であっちの世界とトンネルなんぞ繋げやがって。・・・まあいい。俺の呪いが解けたら必ず喰らってやるからな」

小さな機会が動くような音の後、
青や赤、黒と様々な色にドアが点滅する。
ベルゼブブは大きな声で叫んだ。
「お前ら!向こうの世界は食い物だらけだ。ここと違ってな!動物も植物も食べ放題だ!もう互いに喰いあう必要はない!!」

その声を聞かずして蟲達は我先にと身体をすりあってドアに突入する。
独特の擦れる音が部屋に響き渡る。
「そろそろ我々も新しい食料場所を確保しなくてはいかん。引越しはいい機会だ。さあてワシも腹ごしらえといくか」
空っぽの部屋を見渡すと、ベルゼブブは点滅するドアを潜った。

-イギリス。某研究所−
『空真石の件、了解しました』
軍人の服を着た30代前後の男と染みひとつ見あたらない 白い科学服の老人。
老人は長く伸びた己の髭を撫でながら、ご機嫌そうにニヤリと笑みを浮かべた。
『少佐の潜在能力とワシの科学力の前に敵は皆無!「島袋淳次」と言う通訳を現地に用意した。そいつにまずコンタクトを取り政府と交渉するのだ。しかし!九分九厘まず交渉は決裂するだろう。その後は手筈通り、優しく取ってこい。優・し・く・な』
「必ず博士のもとへ空真石をお届けしますことをお約束します」
ミッドラル少佐は真顔で頷いた。
posted by 麦畑 音子(むぎはた ねこ) at 08:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年01月20日

6章3幕「アメリカンコーヒーは闇夜へ誘うブラウンだ」小説ボイスマン

6章3幕「アメリカンコーヒーは闇夜へ誘うブラウンだ」小説ボイスマン
ハーフフィクションです。現実世界の方への誹謗中傷はお断りです。

6章3幕「アメリカンコーヒーは闇夜へ誘うブラウンだ」
俺様は智成。
本日、天気小雨。
ハロー2009年。
ゴートゥーヘル ジャパーンだ。
景気の悪いニュースが続くが、わかっていたことだろう。
そしてスカーの紹介した工事バイト三昧の俺様にはあまり関係ないような気がする。
今朝、一人で神社にお参りに行った。
健康お守りは必要と思ったし。
女性と手を繋いで降りてくる竜一師匠を見かけた。
普通なら人混みに紛れ気がつかないだろうが、もう暦(こよみ)は二桁。
空いてもなく混んでもなくいい感じの人の波だ。
彼女らしき女性と手を繋いで神社から降りてきた。
冷やかしの一声でもかけてやろうと思ったけど、竜一師匠が階段で思いっきり尻もちをついたので声をかけるタイミングを失ってしまった。
声かけたらほぼ100%階段から落とされるだろう。
もしかしたら俺様のこと気がついていたかもしれないな。
でもバツが悪くて、気がつかないふりを・・・
とにかくだ。
私は何も見なかった。
階段では何も起きなかった。
俺様はここには存在しなかった。
ぶっちゃけ、お邪魔だろうし。
まぁ、雨降りの後で階段が滑りやすいんだろうな。
神様がバチでも当てたのかもな。
ところで隣の女性は誰だったんだろう??
新バンド「ノイネル」も始動したみたいだし、打ち上げのときに胃の中身と共に女性の事も誘導尋問で吐かせてくれるわ!!
あと、バンドといえば、ホイルスピンが新曲「新しい靴をはく時」をひっさげてアルバム「ANGRY&SMILY」のCDを2009.1.18にめでたく発売した。
PVも力が入っていて、いいね。
(沖縄インディーズミュージック・ホイルスピンHP
http://ip.tosp.co.jp/i.asp?i=wheelspin
DAIはWizを抜けてからレコーディング準備に取りかかった。
我らがシャーロックは・・・解散か?(笑・・えん)
そんな感じの新年なんだが。
それよりも今はこの横にいるバカをどうにかしてくれ。
バカ=スカー
しか、いないじゃん。
この小説一バカはスカーしか・・・
ドカーン。身を隠していた壁が破壊された。
「うげぇ!!」
思わず声が出てしまった。
慌てて残された壁に身を隠す。
「どわぁー!!」
再度来る衝撃と共にバカが一緒に吹っ飛んできた。
「おい!スカー逃げるぞ!!マヂ死ぬって!やばいだろ」
俺様は一目散にムカデのような化物の反対側に疾走した。
距離は保てた。
よーし己の安全確保!!
あとは・・・
「スカーお前ならやれる!早くぶっ飛ばせ!」
「そうだな。もう一度やってみる」
血まみれのスカー。
「ハアァアアア!!!」
ドカッ!!耳を塞ぎたくなるような破裂音が響く。
「ウブオェエエア!!」
変な叫びを放ちながら後方に筋肉ダルマが吹っ飛ぶ。
「スカー!!」
俺様が反射的に叫ぶ!
近くまで吹っ飛んできた筋肉馬鹿、仰向けで一言。
「・・・無理だ」
「スカーてめー、だから言ったじゃねーかよ!!逃げるぞ!!おらぁ!」
スカーの腕を首に回す。
「早く起きろスカー、逃げるぞ、おら走るぞ、急げ!」
「ううう・・・」
重い・・・筋肉デブが!!
「おらぁ!!はよー起きんかい!死にたいのか!!」
腕を放し、横たわるスカーの腹に俊足のサッカーボールキックをぶち込む!!
ドカドカドカ!!
「・・・」
悶絶するスカー!!
何やってんだ俺様は!!
人間は極限状態に追いつめられると何をするかわからんと聞いたが恐ろしい。
「ううう。まだだ・・・」
何を言ってやがる。
「バカスカーめ!お前が勝てるって言ってたろーが!!」
スカーのポケットから携帯を奪いとる。
「まだだいじょうぶ・・・」
「うっせー寝てろ、もう無理だろが」
ひらがなでしか「大丈夫」と言えなくなってる奴は黙れ!!
そう言いながら発着履歴を探す。
「召喚士 雪」
発信ボタン。
ムカデ化物が攻撃。
華麗に優雅に避ける俺様!!
プルルルル プルルル・・・
スローモーションで吹っ飛ぶスカー。
壁の破片が俺様の右肩に当たる。
瞬間電話が繋がる。
「・・っ!!てぇな!!負け負け負け!こっちの負け!!」
相手の確認もせず俺様は大声で叫んだ。
すぐに結界とオオムカデは消えた。
「ふぅ」
俺様はその場に座り込んだ。
「おーい、大丈夫か?」
スカーが吹っ飛んで仰向けのまま俺様の心配をしている。
筋肉馬鹿が・・・。
青い召喚士独特の服装で雪が最初のスタート地点の場所から歩いてくる。
「俺たちを殺す気か!!あんな化物」
「オオムカデ??あれ雑魚っちよ。」
「・・・てよ。スカー?」
返事がない。
「雪。スカーの傷を治してやってくれ」
「そんなテレビゲームじゃないし。そんなのあるわけないっちよ」
「ああ!?マジか?じゃあこいつどーすんの?」
「病院に連れていくっち☆」
雪は笑顔で答えた。
―中部の総合病院の組織の特別室。
さっきの乱闘の場所は優衣さん達組織の練習場。
音楽のコンテストでメタクソにダメダシされた俺様はストレス発散にと、スカーに付き合って「念」の練習についてきたってわけだ。
そしたら「実践レベル1」でこれだ(笑)
世の中、甘くないってことだ。
そして
「雪」
優衣さんの仲間で年齢は10代前半位(多分)で
「守」「留」「除」のうちの「留」のチームの召喚士。
優衣さんとスカーにお願いされて練習に付き合ってくれたってわけだ。
正月早々、
「智成、俺はあれからずっと念の練習をしてきた。大丈夫。任せとけ」
スカーが自信満々の笑顔で言っていたのを思い出す。
そいつは今病院のベッドで包帯ぐるぐる巻きになってる(笑)
かわいそうに。優衣さん大御婆様に怒られるだろうな(笑)
バカの「大丈夫」のごり押しのせいで。
まあ はっきりしているのは!!
ぜ・ん・ぶ!スカーが悪い!
俺様も歳をとったものだ。
年が明けて、さらに磨きのかかった上腕二頭筋に騙された。
見抜けなかったよ。
「筋肉」と「念」は関係ないと。
もっと早く気が付くべきだった。
こいつは不器用な奴だったと。
さらについでに、読者のみなさんわかりきっているけれど、念を押して言えば、頭の細胞も筋肉でできているんだと。
1000歩譲って、言うならば、優衣さんからちょくちょくアドバイスを受けていたみたいだから健闘できたらいいなと期待していたのに。
期待したおーれーがーバカだった。
いやいや。バカはスカー。変なオチにするとこだった。
「智成」
「へっ?」
すまなさそうにスカーが包帯の手で頭を軽くかく。
「んだよ?」
「今日はすまない。でも今度は絶対大丈夫だから!!」
「へえへえ。今度は結界の外で観戦しますだよ」
Mr.KINNIKUはまだ実力差を理解していないらしい。
「はぁー年明け早々疲れた・・・」
「大丈夫っちか?智成?」
「ああ」
雪が少し心配そうにうつむく俺様を覗き込む。
「何か飲む?」
「いやいい。疲れたから帰るわ。スカーを頼んだ」
「わかったっち。腕は大丈夫っち?」
雪の語尾につく「っち」はどこの方言訛りだ?と思いつつおれは後姿のまま肩に包帯を巻いていない左手で二人に手を振って病室を出た。
その夜、俺様はライブハウスに潜る。
誰でもいい。とにかく音楽の中に埋めてくれ。
少しだけ休ませてくれ。
何にする?マスターがカウンターで注文を待つ。
「ホットコーヒー」
口の中が切れているが、何かゆっくりしたい気分だ。
アコースティックの曲をするような二人が出てきたし。
そういえばTHE YOUって奴らが1stミニアルバム出すとか表にフライヤーがあったな
(沖縄インディーズミュージック・THE YOU HP)   
http://ip.tosp.co.jp/i.asp?i=theyou2003
そいつらか?
「アコギユニット、テポドン・スクラッチです」
どうやら違うらしい。
誰でもいいや、マッタリさせてくれ。
薄暗いライブハウスで微かな湯気が空間を歪める。そのブラウンは、空間と一体化してしまいそうだ。
小さな音が聞こえる。
カラカラカラ・・・

辺りを見渡す。俺様と同じようにステージに魅入っている客と自分の世界の浸透しているテポドンスクラッチ。
気のせいか。
ギャリギャリギャリ・・・
その小さな音はステージのノイズと溶け込みあって誰も気が付かない。
思ったより、大人っぽい曲を聴かせてくれ俺様は満足してライブハウスを後にした。
ライブハウスのカウンターでは俺様の残したコーヒーの水面に闇が溶け込んでいく。

歌おう 歌おう 

カラカラカラ 頭の中で 転がる音がするよ
ギャリギャリギャリ ほら すぐ傍で 何かが回っているよ
ケラケラケラ 真横で 笑い声がする

地獄の扉が開かれる。
世界各地で一斉に。

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posted by 麦畑 音子(むぎはた ねこ) at 04:08| Comment(6) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月18日

6章2幕「ボイスレス ブルース」小説ボイスマン

ハーフフィクションです。現実世界への誹謗中傷はお断りです。

6章2幕「ボイスレス ブルース」小説ボイスマン

彼はゆっくりと身体を起こす。
「・・・アア」
言葉など発する必要はない。
彼の周りには誰もいない。
自然と言葉の必要性は失われていく。

窓を開ける。
縦の線。
見慣れた線。
鉄格子。
外へ出れないようにしてある。

この部屋は1階建ての貸家。全部で3部屋あるが全て
鉄格子がつけられている。
付けられたではなく、彼が付けた。
古すぎて借り手がいない。
しかしやや丘の上に建てられているため、西よりは視界が広い。
海が住宅の森の向こう側に見える。
窓も玄関のドアから外には出ることはできない。
他の家と一番違うのは、
玄関。
弁当を差し入れる小さな入り口。
そこに弁当を開けて置く。刑務所のようだ。
同じく画材道具が運び込まれる為の、玄関のドアの下の扉。
生活必需品はそこから運び込まれる。
洗濯機は中に。服は部屋の中に干す。
日差しは入るからそんなに困ることはない。
ちなみに玄関は家の中側からは開けられない。
外側からの鍵のドア。
つまり、中の人間は外側から鍵を開けてくれないと出られない。

彼が自分で望んだこと。

首を少し鳴らして窓の外へ視界を向ける。

いつもと同じ風景が・・・

細かく見ると、実はいつもと同じようで少し違う風景が
この世界の時間を進んだことを証明する。

外の世界と触れ合わないで刺激がなくて
何が芸術か。
誰かがそう言った。
一理あると思った。

芸術は爆発よ
誰かが言った。
そうだよなと思いつつ、
絵がもし爆発物化して武器になるのは嫌だな
と思った。

中学1年になった夏、彼は自分の奥が知りたかった。
本当はすごい揺るがないものが
真っ黒の奥にある真っ赤なそして真っ黒な大きな光。
それは感じることができても見ることができない。
取り出してやりたいが、切り裂けば出るのは血ばかりだし。

小学校6年生の時、大好きな犬の八太郎も人間と同じかと思い、
ナイフで軽く切った。
八太郎はキャインと吠えた。
すぐナイフを止めた。
何で?どうして?
当たり前だ。
八太郎が痛がったから。
その経験を踏まえ、
他の人間にもそういうことはしていけないんだと体感した。
ならば自分でするしかないかと切ってみた。
意外とイメージしていたより、何倍も痛かった。
しかし 心 を知りたい好奇心には勝てず何度か腕を切った。

かけつけた母親は 悲鳴をあげ、病院へと救急車で遊びに行く羽目になった。
その後は学校の先生に 悩みがあったら遠慮なく言いなさいとか
どうしたの 何があったの 学校でいじめられたの?と尋ねてきた。
先生に
「心が見てみたいんです。模型とかないんですか?」
と尋ねたところ、先生は目を丸くして答えた。
「ハッ、何を言うかと思ったら そんなものあるわけないだろ」
とすこし声を荒げた。
やっぱり 学校にも置いていないのか と少し残念な気持ちを悟られないようにし職員室を出ようとした。
知らないものを教える、見せる。それがここの役割と辞典には書いてあったような。
もう一人の女の先生が呼びとめた。
「心が知りたいの?」
しばらく黙った後、先生は少し身振り手振りをくわえて 小さな声で
「心は目をつむったら見える。目ではなく想像感じるものなんだよ」
と教えてくれた。
「水みたいなもの。人間の身体は水でできているから。体中を流れているの」
へぇ。手とか歯とか堅いのに水ねぇ?とも思ったが、
「心は水」
というのは新鮮だった。
「教えてくれてありがとうございました」
と頭を下げて答えた。
「目で見えないの。だから自分を切っちゃ駄目よ。目を瞑って描くの。絵を。心の絵を」
何だか嬉しくなった。

それなら絵を描いてみようと、若いがゆえに短絡な思考で美術部に入り絵に没頭した。
感性の強い年頃ということと素直ということが相まって、どんどん技術を吸収していった。

母さんは犬の件で指導を受けてから、なんだか優しくなった気がする。
でも目元が疲れているように見てたので
「心は水」の話はしないでおこうと思った。
子供なりの気遣いである。

ペットの犬の八太郎には謝った。
顔を舐めてくれた。
ごめんな八太郎。
自分でいつか心を捕まえて見てみよう。
根拠は特になくもそう誓った。

高校の頃、ウソのような出来事が起きた。
10枚連番で買った年末ジャンボ宝くじが当たった。
一億円だった。
母親に半分渡した。
でもなんだかんだで 3000万ほどになった。
それでも高校生の彼にとっては無敵に感じられる気がした。
そこで勇気をだして 旅に出た。
少し旅に出てきます。と高校にも退学届を出し、東北までやってきた。

そして部屋を借りることにした。
絵がかけるまで出ない。
そして描けなければ餓死してしまおう。
そして納得できる絵が描けたら死んでもいい。
その時は満足して死のう。
そう決心した。
お金を計算する。
画材道具。改良費。家賃 電気代・・・は電気はろうそくでいい。
いろいろ計算してみた。
よく分からない。

不動産を渡り歩き、元絵描きの噂を聞いた大家を探し頭を下げてお願いした。
全額払うから 5年くらい貸してくださいと。
ありったけのお金を大家の前に積んだ。

そして弁当を毎日。
一食分でいいから届けてくれないかとお願いした。

あと1か月に一回でいいから画材をまとめて買ってきてくれと。
大家さんは現金をみて、ニヤリと笑い縦にうなずいた。

年齢を考えるとすんなり借りれるわけがない。、
そういった知恵もなく、保証人とやらが必要なのも知らない。
それを聞いたときにはがっくりした。
だがどうしたことか家の番号と住所を書くだけでいいと言ってくれた。
大家さんの眼は目の前に積まれているお金しか見ていなかった。
頭に生えた白髪がこれまでの人生の苦労を物語っているようにも見えた。

弁当はお店と契約して一日一食届ける。
1リットルの水と共に。

玄関や窓は好きなように改造していい。
玄関は内側からは開かないようにする。

しかもこちらから連絡がない限りドアを外から開けることはないと約束してくれた。

電話は大家さんに夜中にはかけない。
しかし昼電話が鳴ったらとるように努めてくれと。
万が一、餓死でもして、大家さんに迷惑かけてはいけないので、念書を書いた。
自らの意思でここにいると。

弁当も届かなかったら餓死。
そればかりは信頼するしかない。
そこを疑っている気力がもったいない。
元 画家をどこかで信じたかった。

働く気はなかった。
時間がもったいない。
画家になりたい。
お金を稼ぐ意味。
それは絵を描くためだけの作業。
お金があるのなら絵を描くということを職業とする場合を除いて働く意味はない。
しかし自分自身が納得いかない絵で画家と名乗りたくもない。
でも納得してしまったら、画家で飯を食っていきたいか?というとそうでもない。

ただ今、描きたいのだ。
もっと正論じゃないと駄目なのか?
芸術ってそんな理論固まったものなのか?
今、描きたいんだ。
感じるままに描きたいんだ。
何も考えず。
絵のことだけを脳に宿して。
身体の養分を全て絵に注入したい。
それ以外、意味など万分の一もない。

この作業が終わったら 生きている意味なんてないと思った。
その反面、出版社とか絵関係の会社に電話をかけまくろうとも考えていた。

作品を理解してもらう必要はないが、そのまま捨てられたらそれは可哀そうだ。
せめて売ってもらうなり 飾ってもらおうと思う。
認められたいのかと思ったが、少しはその気持ちはあった。

ああ 凡人だ。

彼は自分の本音を呪った。
なんだかんだ言っても名声が欲しいのだ。
自分自身の行動に酔いたいのか?
いや違う!!
どこかでその自分のかっこつけに拍子抜けしている。
いや拍子抜けをしたふりをした。
まだ本音と 向き合ってない。
心を描くのは 生半可じゃ無理な気がした。
逃げ出さないように鉄格子をかけ、玄関を閉め、向き合うようにしたのは正解だった。

凡人なりの追い込み方をするしかない。
極上の絵を見てみたい。
描いてみたい。
この手で。

それが本音と信じたかった。

最初の年。
食事を食べなかったり、外が明るかったり いろいろ試したが、
無理だとわかった。

2年目。
絵が下手だということに気がついた。
似ていてもピカソとは違う次元だということを気づく。
眼力だけ成長しているのか?
ピカソの深い心が少しだけ感じられたような気になれたのはもしかして少しでも画力が上達した証拠なのだろうか?

3年目。
外の人や出来事が気になり始めた。
どうしたのだろう。
自分の中がさらにわからない。

4年目。
感情が動物のように。うごめく。
筆が狂ったように軽い。
いやぁ 最高。

5年目。
到達できないのは神のいたずらか。
それともただ 時間が足りないのか。
腕が上がらない。
目の前がなんだかずっと薄暗い気がする。
外の世界で太陽に何か異変でも起きたのだろうか?
頭の中で変な音が鳴っている。
糸が切れてカラカラ何かが回ってる。
初めての感覚だ。いいぞ。いいぞ。

6年目。
大家から手紙あり。
近所から、あらぬ噂を立てられて困っている。
10ヶ月位で出て行ってもらえないか?とある。
あの野郎。
連絡するなと約束したのに。
破ったな。
いい所なのに。
邪魔したな。
・・・殺してやる。

部屋を眺める。
積まれたスケッチの数々。
大家のせいでせっかく繋がっていた流れが止められてしまった。
許さねぇ。握る拳に力が無意識に入る。

しかし怒りと裏腹に
漠然と溢れる画材に追いやられ
部屋の隅に崩れ落ちる。
気力が途切れてしまった。

突如、海を誰かが走る画像が。
「誰だ・・・?」
しばらく頭のイメージを追う。
埃のかぶった受話器を取る。
ここ6年、一度も使ったことがない。
殺意の代わりに湧き出る口調でを大家に浮かぶ案をぶつける。

10ヶ月と言わず、後1ヶ月で出る。
その代り、残りの必要分のお金で、ありったけの画材と水をくれ。
大量なのは承知してる。
頼むから持ってきてくれと。
大家は戸惑ったが了解した。

「絵が完成したら是非 わしに一番に見せてくれないか」
と一言付け加えて。

契約するときの大家が浮かんだ。
勝手に大家は絵を売り飛ばすつもりかなとも思った。

描いた後は好きにしたらいい。
自分という存在がそこにたどり着けるのか、描けるかどうかそれが何よりも大事なことだ。

大家だって嫌な顔せず付き合ってくれた。
普通なら断るだろう。
いくら画家の端くれでもトラブルマンはお断りが普通だ。

殺してやると思っていた感情は感謝に変わっていた。
自分自身でするより上手に売ってくれるし、そっちの方がいろんな人に見てもらえる気がした。
描ければ満足。
評価は勝手にすればいい。

どこまでいけるのか。
どこに今画家として立っているのか。

少年は6年のうちにいつの間にか面影は瞳に残しただけの青年になっていた。

元 少年は 暗い空間の中で

絵具を白い空間に
叩きつけた。優しくなでた。躍らせた。浮かばせた。
重ねた。溶かした。混ぜた。広げた。
水を飲んだ。水を飲んだ。頭のイメージをひたすら
目を瞑って追った。
頭の絵が 目の前に 目の前の絵は 夢から現物へ
心の着色剤は 命の息吹を得て 
時間なんてわからない。
時間なんて今は意味がない。

「・・・」
「・・・」
「・・・」

3枚「泉」「命」「水」

何故だか立て続けに描けた。
自分が書いたことが信じられず
感動しすぎて自分自身の背骨に大きな寒気が走った。

どれ位眺めていただろうか?
思考の歯車がキリキリと回りだした。
ギャリギャリギャリ。
脳の中に響く。

太陽は沈んでいるが、
大家を呼ぶことにした。ここ数年で言葉を交わした唯一の人間。

淡々と電話で説明をすると ああ ああ と返事が返ってきた。
一時間程すると、クーペで大家がやってきた。

久々に近場で見る人間だ。
白髪は最初の頃より増えている気がした。
気のせいかもしれないが。

大家は本当は一番最初に見て、場合によっては売り払うことを考えていた。
その売上金を誤魔化して、彼に一部だけ渡すことも少し企んでいた。
6年も付き合ってやったんだ。変な噂がこいつのせいで広まっている。
商売あがったりだ。冗談じゃない。
少しくらい大人の生き方を教えてやろう。

しかしその 画力が 全てを奪いさった。

大家は大家の前に画家だった。画家の端くれだった。
何十年ぶりに殴られたような。そして一枚には優しく包まれたような。
そして最後の一枚には心の奥が握られた。

圧倒的画力の前に 小細工な生き方は吹き飛んだ。

自分が進めなかった道。
自分が憧れていた道。
彼は歩いている。
しかも凄い事は彼は若いうちに この境地にたどり着いた。

まだこんな絵が創造される
そう考えるだけで、大家の退屈に感じていた日常の世界が変わってしまった。
何をこれ以上望む?

本物は 偽物など 圧倒的にかき消す。
その力を絶対的に持つ。
その絵の迫力や優しさはどうにもならない。
人間の手は、ここまでできるのか・・・。

大家は視点が定まらない感じだった。
口は半開きだ。

大家から絵に視線を移した。
二人とも黙っていた。
しばらく黙っていた。
そして顔を見合わせた。
暗黙のまま両手で互いの手を握った。

「今まで協力してくれて本当にありがとう」
「最初に拝めたことを光栄に思う。わしの方こそ、お礼を言わせてくれ」

大家の目が潤んでいるのがわかった。
自分の鏡が目の前で手を握っているような気がした。

とりあえず3枚とも持って行って美術会に展示等をしてもらうことにした。

連絡するからそれまでは来ないでくれ。
彼は、そう告げると大家を見送った。
大家は車に乗り込むと手を軽く振った。
柄にもなく大の大人が互いに見えなくなるまで手を振り続けた。
絵に関しては信用できる。

それだけは理解してしまった。

その日は玄関を開けたまま眠った。
どれ位眠ったのかわからない。
夜風は寒かったが 現実の世界とつながっている感じが懐かしかった。

二日ほど過ぎ
そしてその感情を波うつように今度は悲しみがやってきた。
幸せの出来事と不幸せの出来事は客観的に違う。
でも幸せの感情と悲しみの感情は表裏一体なのだ。
感情は心。波が高く上がればその分深く沈む。

満足の底に眠る感情は燃える怒り
そして静かな静かな氷の色をした死の光。

声にならないような感情が 溢れた。

誰とも会いたくなくなった。
確信だけがはっきりと輪郭をなした。

「これ以上はもうない」
その衝動が満足感とともに襲う。

水を2リットル、一気に飲んだ。
横になった。水は心の奥にまで浸みていった。
その瞬間 それまで書いてきた絵がゴミに思えた。
切り刻んだ。最後の絵は大家が既に持っていった。
それ以外は全部ゴミだ。
ゴミはいらない。
身体も、もうゴミだ。

目を閉じた。
どれ位眠っただろうか。
天井が高い気がする。
左手を見てみる。
ずいぶんと汚いな
薄暗い中 見つめる。

これ以上のものは描けない
でも せめてこれ同等はもう何枚か書いてみたいもんだ。
よし。

受話器を取って電話に貼られた番号通りにプッシュホンを押す。
大家が電話に驚いたような声で答える。

こちらから連絡するなと言われていたので
いつ伝えたらいいものか、困っていたらしい。

絵が2枚、即売したそうだ。
数千万。こんな時代に不釣り合いな額だ。

1枚は大家が是非とも売ってほしいので、展示しなかったそうだ。
今までのお礼にそれはやると言った。
その代りに、売れた絵の高い方のお金は母に渡してくれ。

残り一枚は手数料として大家にやることにした。

大家は謙虚な声でこういった

「先生、私は絵を一枚頂けただけで光栄だ。金は要らない。これからも絵を描き続けてくれ」と。

そんなおべっちゃらや建前はいらない。
あなたが昔、承諾してくれなければあの絵はない。
受け取れ。

「しかし、先生、お気持は嬉・・」

電話を切った。
怒りからではない。
建前は聞きたくない。
先生などではない。
描きたいものを描き切っただけだ
根本的に自分のしたいことをしただけだ。
大家には感謝してもしきれない。

作業の邪魔した時は殺そうと思ってたが、
その感情も役に立った気が今はする。

隅々まで望むように描き切れた、この感動は誰にもわかるまい。

「芸術は絵に限らず、音楽も、自然も人もきっと突き詰めていけば、全ては「世界絵図」なのだ」

変な確信が嬉しくて男はしばらく口を開けず歌った。
声に出さずして。
音のないハミングが画家の世界を色つける。

これこそがひとつ全てに繋がっている空気
音楽家ではないが歌える。
完全はないが完璧はある。

夢見たキャンパスはやはり白かった。
この世界の最後の最後まで!!

次の日 彼は崖から身を投げた。

その瞬間を偶然にも見てしまったカップルから通報があり
警察の捜索が始まった。
カップルの証言によると、男はゆっくりだが思いつめた感じではなかったように見えたという。

その死体が見つかることはなかった。

カップルが殺人容疑で疑われることはなかった。
なぜならすぐに部屋に彼の直筆と思われる大家に対しての手紙が見つかったからだ。

「身体はゴミ 心は水 芸術は無限 黄泉は 黄色い泉と描くだろう? 興味が湧いた 止められそうもない だから旅に出てみるよ 帰ってきたら 素敵な絵をプレゼントするよ ありがとう」

芸術家の間で彼の才能を惜しみ、大家の持つ1枚を除き、2枚の絵は高額で世界の資産家の間を回ることになる。

カラカラカラ 頭の中で 転がる音がするよ。
ギャリギャリギャリ ほら すぐ傍で 何かが回っているよ。
ケラケラケラ 真横で 笑い声がする。

彼は「画家」と成って 孤高の人として闇の中へと消えた。


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6章3幕「アメリカンコーヒーは闇夜へ誘うブラウンだ」
posted by 麦畑 音子(むぎはた ねこ) at 14:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年08月29日

6章1幕「メタモルフォーゼ・バタフライ」小説ボイスマン

6章1幕「メタモルフォーゼ・バタフライ」小説ボイスマン
お断り※この話はハーフフィクションです。現実世界での人に対しての誹謗中傷は一切お断りです。そのマナーが守れない人は読むのを禁じます。


「ちぇ」

おれは無意識に軽く舌打ちをした。
雨かよ。
雨は嫌いじゃないけどよ。

今からコンテストだっつーの。

雨。
どちらかというと大雨。いや、小雨。
違うな。中雨。

そうだ中雨。

・・・中雨って。雨?

小雨 雨(中雨)大雨

正式にはそういう表現でいいのか?
暇な時、ヤフー知恵袋でも使って質問してみよう。

朝だというのに 涼しげな夏の雨。涼しげと言っても結構大粒だ。
今日一日は止まないだろう。

コンテストに応募した。
当たり前に予選は通った

おれを誰だと思ってやがる。

おれは智成。
読者は知っていると思うが、未来のスーバーロックスターだ。
音楽業界へ羽ばたいてやるぜ。
ああ・・・だるい。

シャーロックを解散とか言うから 俺一人でもできるってーの思い知らせてやるところだ。
そこで奴が泣いて戻ってきて、土下座したところで脳噛ネウロ並の悪顔で踏みつけて

「そこまで頭を下げるのなら仕方がないな〜ではまた活動してやるか」

と言ってやる。

ちくしょー石原め。
マジで連絡しねーし。

おれは気分を落ち着けるためメンソールの煙草を吸った。
メンソールは吸わなかったが吸ってみるとこれはこれで悪くない。
最近本数が増えている。

アパートの下で一服する。

ふー。

白い煙が空間に薄く消えていく。

ふと見ると少し離れた場所に蝶がいる。
アゲハ蝶だ。
おれは煙草を口にくわえたまま、荷物をそっと置いて近寄る。

タンポポに乗っかっていた蝶の羽は水滴が乗って普段見る蝶より神秘的で不思議だった。

蝶はピクリとも動かない。

買ったばかりのギターケースには以前の破れたギターケースに
昔、里美がつけた仮面ライダーのキーホルダーがついている。

名前は知らない。青い結構かっこいいサイバーなやつだ。
そいつがギタートップあたりで揺れている。

あれ?横についている四つ葉のクローバーのガラスのアクセサリは・・・?
誰からもらったっけ?

思い出せない。

傘をさしてギターが濡れないようにする。
エフェクターはケースごとゴミ袋に入れてあるから大丈夫。

いくかな。遅刻してリハできないのも困るし。

おれは仕方なさそうに歩きだした。
今日は何かダルイ。

そりゃそうだ。昨日寝たのは夜の3時。

現在 朝7時10分
約4時間の睡眠だ。

ライブハウスまで3時間。
ミーティングとリハーサルは13時開始で確か12バンド位、今日は演奏するとか聞いたな。

みてろよ。みてろよ。
誰に対して言っているのか。おれは世の中に対して言っているのだろう。

グー

腹は正直だ。気張るのは今は止めておこう。
まずはマクドに寄り道して、昼前には着くようにゆっくり行こう。
「チョウチョ♪チョウチョ♪この指止まれ♪・・・あれ?なんだっけ?こ・の・ゆ・び・と・ま・れ♪・・・違うような・・・いいか別に」

「チョウチョ♪チョウチョ♪」
歌詞をぐちゃぐちゃにして鼻歌を歌った。空気が涼しい。

傘の大部分をギターケースに奪われゆっくりと雨の中を歩いた。
どうしたんだって?そういう気分だったんだ。その日は。

一人にも慣れなきゃな。

2章「ボイスレス・ブルース」へ続く。
posted by 麦畑 音子(むぎはた ねこ) at 01:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする