2009年09月06日

6章7幕「RED」小説「ボイスマン」

6章7幕「RED」小説「ボイスマン」

※実在する人物に対する誹謗中傷禁止です。守れる人だけ読んでください。6章では『』は外国語という読み方で、よろしくお願いします。

本山。
午後6時3分。1時間強程の雑談と交渉の後。
「わかりました」
淳次は小さなため息をすると席を立つ。
バスケットシューズの紐をしっかりと結ぶ。
広い庭へ歩きだす。
この瞬間が何だか一番緊張する。
観音婆とミッドラル少佐の視線を背中に感じながら。
淳次は振り返り、掌を合わせる。
「お話はもう結構です」

「おい!せっかく音源持ってきたんだから並べてくれよ!」
俺様は切上智成。雪とライブハウスに来たところだ。正確には玄関口で偶然会ったマスターと外で話をしているとこだ。
ライブができないなら、せめて営業をしようと思う。ライブハウスのわからずや頭でっかちマスターに交渉している。
カーネル新曲「WORLD END」かっこいい曲なんだよ!頼むよ。30枚置いていてくれよ!ホームページアドレス書いた紙も挟んであるし!頼むよ!結成したてなんだよ!http://ip.tosp.co.jp/i.asp?i=manybrown&P=0&MD=I
マスターは覇気のない顔で首を横にふる。昆虫騒ぎで疲れているのだろう。
でもそんなのは関係ない!
「まずは10枚だ。売れたらまた持ってきてくれ」
「あっという間に無くなるって!なら試しに今聴いてみてくれよ!」「30枚は多すぎだ」
横ではクレープをかじりながら、雪が知らない世界を見るような顔で俺らのやり取りを見ている。
召喚の修行ばかりしている雪にとっては珍しいに違いない。気がつけば1時間近く話しているかもしれない。
しかし、俺様は根負けなどせん!
「あ!」
雪が大きな声をあげた。俺様とマスターは同時に雪の方向を向いた。
バケモノサイズの昆虫が路地の向こう側にいた。

「ハハハ!」淳次のその笑い声と同時に、ミッドラル少佐が瞬く間もなく庭に飛び出す。
闇夜に一瞬にして淳次の掌から紅い光が放射する。
一瞬にして魔法陣が縦に発生する。
同時に地面に魔法陣が浮かび上がり淳次の3m上空辺りまで円柱状に包む。
「ミッドラルさん、後は任せましたよ」
淳次は合わせた掌を放すと全力で階段に向かって駆け出した。
俺の仕事はここまでだ。
『誰も生かしておかないよ』
ミッドラルはそう小さく呟くと魔法陣から現れたそいつに乗り込んだ。
「へぇ」
観音婆は座敷に座ったまま、かわいい声をあげた。


posted by 麦畑 音子(むぎはた ねこ) at 02:51| Comment(1) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年08月16日

6章6幕「人間」小説ボイスマン

6章6幕「人間」小説ボイスマン

ハーフフィクションです。
現実世界の方への誹謗中傷はお断りです。

※お願い
6章は『』は外国語全般
「」は日本語という解釈でお読みください。

淳次はワンボックスの車を飛ばす。
年式もので中古だ。もちろん名義は知らない。
用意されたものだ。不要なことは喋らない。
それは常識だ。それは自然に身についた。
しかし黙っているだけでは情報は手に入らない。
ミッドラル少佐との簡単なお喋りは続く。
高速でETCを使い降りる。ミッドラルは興味のない感じで空を見ている。
夕方前には着くな。やや空は曇り始めている。
予定より早く着いてしまった。淳次は少しだけ汗が頬を伝った。
自然を装うように窓を開ける。
イギリスって暑いんですか?』
・・・後ろ座席からは返事が戻ってこない。
集中しているのか。バックミラーをチラッと覗く。
ミッドラル少佐は目を瞑って腕を組んでいる。
空港から出発する際、相棒の増田にスイッチを入れた。
早めに予定が進んだ場合の保険も考えてある。
常識だ。
「本山」まで予定の時間を考えながら3時間。
上手に運ばないと。下手なことに巻き込まれないように。
約3時間後。
凛とした顔つきにいでたち。
山伏みたいな格好。
今山頂にある、「列島総本部」の寺には観音婆が一人。
正座をしてミッドラル達を待つ。
既にイギリス研究部「TAA」の責任者とやらから連絡が入っている。
今、ここ総本部には観音婆一人しかいない。
観音婆は少し遠めの階段に視線を向ける。
「ふーいぃ〜やっとこさ着いた〜なんだこの階段は〜」
山の階段側からヘロヘロと淳次の頭が見え始める。
この子が通訳の淳次さん。その後の・・・金の短髪でいかにも軍人だ。
この方がミッドラルさんね。ガタイのいい外国人
観音婆はちょこんと立ち上がり、草履を履くと寺の玄関の付近で二人を待った。
「ようこそ。お待ちしておりました。お茶でも飲んでってくださいな。階段長くて大変だったでしょう」

・・・おれ様は智成。シャーロックが動かないので、カーネルというバンドを「健弐」という奴と組んだ。「SRH」の旗を使えないのは残念だが。
気持ちを切り替えて頑張るよと思っている。しかし!しかしだよ!諸君!先月、地下のライブハウスで惨殺事件があってからなかなかライブハウスが使わせてもらえないんだよ。その事件があった場所に関わらずだ!
オーナー側もそれでは死活問題だということで警察に抗議してるが。噂ではでかい虫が現れて人を食ってしまったとか。
オカルト専門家は国の軍事兵器だとか、宇宙からやってきたとか、温暖化による突然変異とか色々言ってるんだけど。
知らん!ライブをさせてくれ!ライブを!せっかく新曲も書いたんだよ〜。そうだそのライブハウスに行ってみるか。さすがに中には入れないだろうけど。
スカーは入院中で、健弐はバイト中か。一人で行ってみるかな。そうだ!雪を呼んでみよう。あいつ暇だろうし。
電話をかけると雪はすぐに電話に出た。
「雪?今時間あるか?」
「あるっちよ」
「散歩行かね〜か?」
「嫌っち」
「頼むよ〜クレープ食べながらでも」
「行くっち」
クレープだと即答か。
雪はクレープにはまっているらしい。しかし一人で注文するのはダメで誰かとならいいらしい。おごるわけではない。自腹だが。変なこだわりだ。
「なら2時間後にスカーの病院の近くのマクドナルドの前で。わかるよな?」
そう言うと電話を切った。さてと。着替えるとするか。

場所が変わって日本。
「イヤアアア!!」
車から飛び出した女性がその場で座り込んでいる。
ベルゼブブが道を壊して田舎の小さな無人の道路を潰している。
「たたたたああ・・ああ」
女性は恐怖のあまり言葉にならない。
当たり前の反応。何十メートルもある虫なんて。見たことない。
「食べやしねえよ」低くそして大きな声が響いた。
ベルゼブブは流暢な日本語で喋りかけた。
「お前らみたいな装飾品のちっちゃなもの食べても腹は満たされねぇ。動物園とかどっか自然がいっぱいある場所はどこだ?」
「ああわわあああ」しかし女性は軽いパニック状態だ。無理もない。
「おれは元・人間だ。だから怖がるな」真実は時に現実に勝てない。
「あわあああ」依然女性の反応は変わらない。
「ふぅ。・・・話にならんな」深い息を吐くと、しばらく女性を見つめ、ベルゼブブは自分の身体に視線を流した。
諦めたベルゼブブは女性をほっぽらかして、飛行機に限りなく近い速度でそのまま夜に紛れた。


さらに場所は遠く離れたイギリス「TAA」のSクラスの研究所。大きな円状の部屋の中央に立派なデスクが一つ。そこで少年というより子供が額を机にこすりつけながら、怒りで握りしめた手を震わせている。
『ぐぐぐぐぐぐ!何で何で。勝手に!!あれは僕が作ったものだろう。僕が乗るんだ!」子供は机にゴリゴリと額を強くこすり合わせながら呟く。
『・・・バカ共が。全員殺してやる』
漆青の目の奥で言い表せない怒りが燃えていた。
ウィーン。ドアが開く。
『失礼します クォード様・・・』
言いかけた研究者は次の瞬間、胃から下の内臓が吹きとんだ。
まるで近距離でバルカン砲を発射されたように。
ウウウウウ・・・・緊急警報と同時に部屋のドアが閉まり始める。
同時に麻酔煙のようなものが噴き出す。
クォードは自分の中で止められない怒りが倍増して叩いているのがわかる。
『ふざけるな。ふざけるな。バカ共が!』
煙はクォードを見えなくなるまで包み込んだ。

『バカどもが!貴様ら全員に今から天罰を下してやる!』
クォードの小さく高い声は研究所の部屋に鋭利に響いた。


posted by 麦畑 音子(むぎはた ねこ) at 23:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年06月29日

6章5幕「噂の婆」小説ボイスマン

6章5幕「噂の婆」小説ボイスマン
ハーフフィクションです。
現実世界の方への誹謗中傷はお断りです。

※お願い
6章は『』は外国語全般
「」は日本語と言う解釈でお読みください。

ここは東京国際空港。
遠目に、たくさんの男の姿が見える。
その中にやけに規律正しいリズムで歩いている男一人。
その男は立ち止まり通行人の邪魔にならないように携帯電話に電源を入れる。
そしてそのままボタンを触っている。
胸元に入れた携帯電話が聞き流さないようにセットした最大音で鳴り響く。
しかし空港内の雑音と混じって辺りの反応は薄い。
日本の日常で起こるいたって普通の風景。ただ携帯が鳴ったそれだけのこと。
彼−島袋淳次は携帯を取る。流暢な英語で答える。
到着口から出た、いかつい男はこちらを向くと、ものすごい形相で一定のリズムでしかし無駄のない早い動きでこっちに一直線に向かってくる。
既に尋常な直線歩きではない。淳次は後ずさりした。お・・・恐ろしい。道端でいきなりされたら全力ダッシュで逃げ出しているところだ。
あっという間にその男は近くにやってきた。その瞬間不思議なほど滑らかにそして雰囲気が変わった。こいつ只者じゃない。淳次は感じた。
『貴方が通訳の方かな』
軍人は柔らかなそして温かな口調で声をかけた。
『そうです、私が通訳です、その前に車に移動しましょう』
淳次も気を取り直し、自然としかし早々した声で答えた。
軍人−ミッドラル少佐はそれに促されるように警戒を回りに放ちつつしかし、柔らかな不思議な感じで自分より小柄で小さな日本人、淳次について行った。
188cmの身長に軍で鍛え上げた筋肉の塊の彼にとっては誰であれ小さく映るのだが。
淳次が用意した観光案内用のバスに乗り込む。客はミッドラル少佐のみ。当たり前だ。このバスはカモフラージュ用だ。
『私の仕事は神様のお婆さんと会うことだ』
軍人の人から仕事の内容を話し出すことはないと思っていた。淳次は少し戸惑って答えた。
『・・・ああ、聞いてます。神様のお婆さんですね』
淳次はその後、ハンドルを右折に切りながらにやりと笑っていた。
観音婆(かんのんばばあ)−裏の世界での有名な名だ。淳次は会ったことはないが今まで裏の通訳の仕事をしていて噂を何度か耳にしたことがある。山のてっぺんに住んでいて日本政府の守り神と呼ばれているらしい。機会があれば、一度はお目にかかりたかったとこなんだ。
『上手に通訳頼むよ』
『ミッドラルさん日本語の方は?』
『ははは、ちっともだ。体ばかり鍛えて過ごしたからな。相手を倒すのに言葉はいらない。せいぜい降参しろぐらいだ。日本ではマイッタだよな。確か』
ミッドラル少佐はごつい顔に似合わず手で短髪をガシガシ掻いた。
『通訳の方は任せといてくれ』
『話は届いているだろう』
『はい、そっちの博士から大体の内容が送られてきました。それを踏まえて交渉してみます』
『なるべくは穏便にいきたい。女性に手をあげるのは仕事とはいえ好きじゃない』
ミッドラル少佐は丸太にハンマーが付いたような大きな拳をぎゅっと自分の顔の前で握り締めた。
バックミラー越しで淳次は一瞬、後ろに座る少佐を見て、前方に注意を放ちながら言った。
『そうですよ。平和が一番ですよ』
淳次は丁寧な口調でそう答えた後、助手席に置いてあるイギリスの研究所から送られてきた紙に少しだけ目をやった。
“お人よし・・・か”心の中でため息をついた。
博士から送られてきた内容は矛盾している。つまり明らかに英語と日本語の内容が違っている。
話し合いは決裂する。穏便はない。軍人はそれを知らずして穏便を信じているのか。それとも忠誠心ゆえ、とぼけているだけで本当はそうなることを知っているのか。
それは仕事とは関係ないか。
淳次は自分のことだけを考えることにした。自分に火の粉がかからないように。
少しばかり情報も手に入れたし。
この世界で生きていくにはがっついてはいけない。
ほそぼそと進むのがいいんだ。
ホテルまで行きますか』
『すぐ向かってくれ』
『えーと、観音婆?』
『そうだ、彼女のとこにだ』
『昼食は?』
『食べた。少し休むか?』
ミッドラルが優しく聞いた。
『・・・わかりました。すぐ行きましょう。では車を乗り換えるのでそこのホテルで降りてください』
ふう。淳次は車から降りるとため息を少しついた。
鏡のようにピカピカに光ったホテルの窓ガラスに自分の姿が映る。
やっぱ向いてないのかなぁ。通訳・・・そう思いながら車へ向かう。
新しい車に乗り込む。
『ところで通訳君』
『何です?』
『観音婆は強いのか?どんな女性だ』
『わかりません。噂では口から光を放つとか』
『ははは。レーザーを出すのか。それは手強いな』
『強いか賢いのかわかりませんが、とにかく石の守護者です。一筋縄ではいかないと思います』
『・・・』ミッドラル少佐は黙り込んだ。雰囲気が変わった。話しかけられる雰囲気ではない。
『では観音婆の所へ向かいます。ミッドラル少佐、仕事よろしくお願いします』淳次は小さな独り言のように呟いた。

某警察署。
昨夜。某高速道路。事故が起こった。その時、現場に居合わせて警察に通報した男二人組みとカップルの証言。
「俺らが事故があったんで慌てて警察に電話したんだ」
男がろれつが回らない様子で慌てて話す。
「でもそんなことよりも、空を飛んでいた、あのでかすぎの化け物をどうにかしろ!!日本は終わるぞ!!冗談じゃないって!!俺たち全員見たんだって空を覆う程のでかい化け物が西へ飛んでいったんだ!すごいスピードで嘘じゃないって!!」
男は泣きそうな顔になったり、ひとりで困ったような顔になったり。見たことが何なのかわからず混乱しているようだった。
男は警察官の胸倉をつかみかかった。
「こら!貴様障害でしょ・・」
別の警察官が取り押さえようとする前につかみかかった警察官に振り払われる。
地面に転がった男は尻餅をついた状態で署内に響き渡る声で大声で怒鳴った。
「頼むから真面目に聞け!あの化け物をどうにかしろ!!日本は終わるぞ!!」

男の悲痛な声が何度も この後飛んだ。
夜の雨はずっと 止むことなく その時間を外から眺めていた。
サヨウナラ 人類。今度は貴様らが滅びればいい。
posted by 麦畑 音子(むぎはた ねこ) at 01:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年02月15日

6章4幕「手」小説ボイスマン

ハーフフィクションです。
現実世界の方への誹謗中傷はお断りです。

6章4幕「手」小説ボイスマン

ぼんやりとした感覚でぼんやりとした中世の城のような雰囲気の中を歩く。
ここの天井は高く端々は薄暗い。
湿度も高いようだ。
風らしきものは無い。
ただただ夢のような気持ち悪い感覚が背中にへばりついている。
彼は元・画家。
いや正確には故・画家。
先日、投身自殺をした天才画家だ。
・・・
意識は届いている。
しかし何故歩いているのか、何処を歩いているのか。
それは思い出せそうもない。
身体を見ることもできない。
視界だけがその空間を描写する。
・・・?
・・・?
どれ位歩いただろう?
ぼんやりと立っている。
認識はあるが自分自身の身体を確認することはできない。
いつの間にか目の前に何かある。
何だ?
あれは?
そう思うと気がつかないうちに場内の空間は消え、目の前に何かが浮かぶ。
赤いような黒いようなそれでいて曖昧なものがいる。
目の前に。
炎?
いや違う?
ぼんやりした光?
それは徐々に巨大な化物に変化した。
画家はゆっくりと見上げた。
巨大な黒い炎の形のように見える。
その左右に二体。
向かって右手。
仁王立ちしている人間のような化物。
向かって左手。
でかい昆虫タイプ。・・・蝿?

大きさは・・・20mぐらいだろうか?
山を見るようにそれらを眺める。
しかし、それに驚かない自分がいた。
距離感がつかめない。
でかすぎる。
画家は無意識に後ろに下がった。
視界に三体のようなものが首を動かさずに納まった。
心臓はうるさくない。
ただ定期的な音が脳内に響いている。
トクントクン。

パンッ!!

大きな手を叩くような音が右手側の化物の空間からこだますと意識は冴えた。

画家は何故だか己の手を見た。
手。
私の手。
記憶を思い返す。
しばらくして顔を上げた。
目の前に巨大な化物。三体。
右の大きな仁王立ちする人型の化物。
その業炎のような威圧感のある瞳は中央の化物に向けられている。
しかもよく観察すると唇から薄ぼんやりと青白い光が漏れている。

「主よ、いかがいたしましょう?」

人型の化物がそう言った・・・ようだ。
・・・静寂があたり一面に広がる。
ただの漆黒のような時間。
中央の炎のようなものは陽炎のようにうねって、微かにくすんでその姿は完全に消えた。
画家は何が起こっているのかわからなかった。
夢の中のような不確さ。
画家の視点は巨大な蟲と人型の化物を何度も行き来する。

「私もこいつに用は無い。わかるな?ベルゼブブ」

人型の化物は巨大な蟲にそう言った。
いや正確にはそう言ったような気がした。
「わかったベリアル、私の部屋に連れて行く」
蟲がそう返した・・・ような気がした。
人の形をした化物はゆっくりと空間の中に溶けた。

ベルゼブブとベリアル。

ベルゼブブは確か蝿の王。
ベリアルは確か悪魔の何かだったような。
蟲の王は羽音を場内に響かせた。
あまりにも大きい不快音。
反射的に画家の背中に寒気が走った。
そしてはっきりとこう言った。

「人間よ」

蟲の眼は彼のどこを見ているのかわからない。
しかし身体に走る寒気は背中に走り続けている。

「・・・はぃ」

画家は小さな声で返事をした。

「手があるな」

蟲の声は何十にも聞こえて金属音のようにも聞こえる。
「話せるのですか?」
画家は少しの安堵感を覚えた。
「ここに黄泉という泉が・・・」
そう言いかけた時、節足の先の先がが右胸をズンッと貫く。
胸の服が赤い血に染まっていく。
「うっ・・う・・」
痛みはそんなには無い。
しかし声が出ない。
片肺を貫かれたか。
節足が胸から抜き取られると、羽音が複数音、場内に乱反射する。
蟲の眼には、反射して胸を押さえている自分の姿。
どんどん赤い染みは服に広がっていく。

「ベリアルなんてくそ食らえ」

大蝿は独り言を吐き出した。
ガラス張りのような眼の奥に憎悪が渦巻いているのだろうか。

毛だらけの数本の節足に抱え込まれた。
逆らうとかそんなレベルではない。
大きさが違うのだ。
画家は宙高く舞った。
黒なのか赤なのか絵の具に使ったことのある血が胸から止まらない。
鼓動がドクドクと頭の中に響く。
・・・死んだのに死んだらどうなるんだ?
ささやかな疑問が湧いた。
答えが見つかるはずもなかった。
ブブブブブブブ不快な音が耳をおかしくする。
次第に多く大きく聞こえる。
耳が麻痺してしまいそうだ。
数十秒の浮遊感の後、背中と後頭部に殴られるような鈍痛が走った。
大蝿が「私を地面に落とした」と認識するのに時間がかかった。
揺れている視界が頭の鈍痛が、血まみれの手が腕が、鋭い思考を止める。

辺りを見渡すと。部屋中、巨大な蟲だらけだ。
数はわからない。
どうやら羽根はついてないみたいだ。
地面を這っている。
何千匹だろう?
いや何万匹?
とんでもない数だということはわかった。
餌に群がるように近くの蟲達が一斉にのしかかるように、画家にまとわりつき始めた。
節足動物達の足。
足。
足。
部屋。
周り。
蟲。
蟲。
蟲。
蟲。
大きさ。
1メートル。
胸。
血。
押さえなきゃ
何処か。
何処か。
何も無い場所。
どこだ。
血。
死。
蟲。
短い言葉が頭でフラッシュする。
群がる節足達から反射的に逃げた。
とにかく背中の方向によろけた。
そこにいる様々な蟲を眼を細めながら片手で払った。
何処か
何処か。
普通の場所。
壁を目指した。
壁。
壁。
壁。

ドン!

肩に走る衝撃で壁を認識した。
壁だ。
しかし巨大蟲は押し寄せる。
壁沿いにもたれかかりながら、
左方向に意図なくよろけ進んだ。
出来る限り早く。
右手は額の前に。
血まみれの胸を左手で押さえて。
死んだことを忘れて。
どこかどこか出口はないか。
どこか。
どこか。
何十メートル進んだかわからない。
何十秒、いや何分経ったかわからない。
蟲に視界を阻まれながらも壁にもたれかかりながら進んだ。

ゴスッ!

物凄い衝突音共に、目の前が暗くなった。
何かにぶつかった。
鉄だ。
手の平2つ分位だろうか?
壁から生えている。
希望の光はすぐ認識された。
ドアだ。
ドアだ。
開けよう。
蟲の節足ではドアが開けられないのだ。
とにかく隣の部屋に。
画家はドアノブを血まみれの両手で開けた。
ドアが何故そこにあるのか考えることはなかった。
ドアを開けた。外気を吸うと同時に画家の胸に強烈な痛みが走った。
ゆっくりと消滅していく画家の魂の最後。

カラカラカラ 頭の中で 転がる音がするよ
ギャリギャリギャリ ほら・・・
懐かしい歌が脳裏を流れている狭間で画家はゆっくりと煙に変わった。
少しだけ残ったゴミのような残骸はドアの向こうの風に乗って消えてしまった。

音を立てずにドアノブと枠が青白く点灯している。
「ベリアルとバンシーのババアの仕業か。嵌(は)めやがったな。よくも俺の部屋を魔法であっちの世界とトンネルなんぞ繋げやがって。・・・まあいい。俺の呪いが解けたら必ず喰らってやるからな」

小さな機会が動くような音の後、
青や赤、黒と様々な色にドアが点滅する。
ベルゼブブは大きな声で叫んだ。
「お前ら!向こうの世界は食い物だらけだ。ここと違ってな!動物も植物も食べ放題だ!もう互いに喰いあう必要はない!!」

その声を聞かずして蟲達は我先にと身体をすりあってドアに突入する。
独特の擦れる音が部屋に響き渡る。
「そろそろ我々も新しい食料場所を確保しなくてはいかん。引越しはいい機会だ。さあてワシも腹ごしらえといくか」
空っぽの部屋を見渡すと、ベルゼブブは点滅するドアを潜った。

-イギリス。某研究所−
『空真石の件、了解しました』
軍人の服を着た30代前後の男と染みひとつ見あたらない 白い科学服の老人。
老人は長く伸びた己の髭を撫でながら、ご機嫌そうにニヤリと笑みを浮かべた。
『少佐の潜在能力とワシの科学力の前に敵は皆無!「島袋淳次」と言う通訳を現地に用意した。そいつにまずコンタクトを取り政府と交渉するのだ。しかし!九分九厘まず交渉は決裂するだろう。その後は手筈通り、優しく取ってこい。優・し・く・な』
「必ず博士のもとへ空真石をお届けしますことをお約束します」
ミッドラル少佐は真顔で頷いた。
posted by 麦畑 音子(むぎはた ねこ) at 08:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年01月20日

6章3幕「アメリカンコーヒーは闇夜へ誘うブラウンだ」小説ボイスマン

6章3幕「アメリカンコーヒーは闇夜へ誘うブラウンだ」小説ボイスマン
ハーフフィクションです。現実世界の方への誹謗中傷はお断りです。

6章3幕「アメリカンコーヒーは闇夜へ誘うブラウンだ」
俺様は智成。
本日、天気小雨。
ハロー2009年。
ゴートゥーヘル ジャパーンだ。
景気の悪いニュースが続くが、わかっていたことだろう。
そしてスカーの紹介した工事バイト三昧の俺様にはあまり関係ないような気がする。
今朝、一人で神社にお参りに行った。
健康お守りは必要と思ったし。
女性と手を繋いで降りてくる竜一師匠を見かけた。
普通なら人混みに紛れ気がつかないだろうが、もう暦(こよみ)は二桁。
空いてもなく混んでもなくいい感じの人の波だ。
彼女らしき女性と手を繋いで神社から降りてきた。
冷やかしの一声でもかけてやろうと思ったけど、竜一師匠が階段で思いっきり尻もちをついたので声をかけるタイミングを失ってしまった。
声かけたらほぼ100%階段から落とされるだろう。
もしかしたら俺様のこと気がついていたかもしれないな。
でもバツが悪くて、気がつかないふりを・・・
とにかくだ。
私は何も見なかった。
階段では何も起きなかった。
俺様はここには存在しなかった。
ぶっちゃけ、お邪魔だろうし。
まぁ、雨降りの後で階段が滑りやすいんだろうな。
神様がバチでも当てたのかもな。
ところで隣の女性は誰だったんだろう??
新バンド「ノイネル」も始動したみたいだし、打ち上げのときに胃の中身と共に女性の事も誘導尋問で吐かせてくれるわ!!
あと、バンドといえば、ホイルスピンが新曲「新しい靴をはく時」をひっさげてアルバム「ANGRY&SMILY」のCDを2009.1.18にめでたく発売した。
PVも力が入っていて、いいね。
(沖縄インディーズミュージック・ホイルスピンHP
http://ip.tosp.co.jp/i.asp?i=wheelspin
DAIはWizを抜けてからレコーディング準備に取りかかった。
我らがシャーロックは・・・解散か?(笑・・えん)
そんな感じの新年なんだが。
それよりも今はこの横にいるバカをどうにかしてくれ。
バカ=スカー
しか、いないじゃん。
この小説一バカはスカーしか・・・
ドカーン。身を隠していた壁が破壊された。
「うげぇ!!」
思わず声が出てしまった。
慌てて残された壁に身を隠す。
「どわぁー!!」
再度来る衝撃と共にバカが一緒に吹っ飛んできた。
「おい!スカー逃げるぞ!!マヂ死ぬって!やばいだろ」
俺様は一目散にムカデのような化物の反対側に疾走した。
距離は保てた。
よーし己の安全確保!!
あとは・・・
「スカーお前ならやれる!早くぶっ飛ばせ!」
「そうだな。もう一度やってみる」
血まみれのスカー。
「ハアァアアア!!!」
ドカッ!!耳を塞ぎたくなるような破裂音が響く。
「ウブオェエエア!!」
変な叫びを放ちながら後方に筋肉ダルマが吹っ飛ぶ。
「スカー!!」
俺様が反射的に叫ぶ!
近くまで吹っ飛んできた筋肉馬鹿、仰向けで一言。
「・・・無理だ」
「スカーてめー、だから言ったじゃねーかよ!!逃げるぞ!!おらぁ!」
スカーの腕を首に回す。
「早く起きろスカー、逃げるぞ、おら走るぞ、急げ!」
「ううう・・・」
重い・・・筋肉デブが!!
「おらぁ!!はよー起きんかい!死にたいのか!!」
腕を放し、横たわるスカーの腹に俊足のサッカーボールキックをぶち込む!!
ドカドカドカ!!
「・・・」
悶絶するスカー!!
何やってんだ俺様は!!
人間は極限状態に追いつめられると何をするかわからんと聞いたが恐ろしい。
「ううう。まだだ・・・」
何を言ってやがる。
「バカスカーめ!お前が勝てるって言ってたろーが!!」
スカーのポケットから携帯を奪いとる。
「まだだいじょうぶ・・・」
「うっせー寝てろ、もう無理だろが」
ひらがなでしか「大丈夫」と言えなくなってる奴は黙れ!!
そう言いながら発着履歴を探す。
「召喚士 雪」
発信ボタン。
ムカデ化物が攻撃。
華麗に優雅に避ける俺様!!
プルルルル プルルル・・・
スローモーションで吹っ飛ぶスカー。
壁の破片が俺様の右肩に当たる。
瞬間電話が繋がる。
「・・っ!!てぇな!!負け負け負け!こっちの負け!!」
相手の確認もせず俺様は大声で叫んだ。
すぐに結界とオオムカデは消えた。
「ふぅ」
俺様はその場に座り込んだ。
「おーい、大丈夫か?」
スカーが吹っ飛んで仰向けのまま俺様の心配をしている。
筋肉馬鹿が・・・。
青い召喚士独特の服装で雪が最初のスタート地点の場所から歩いてくる。
「俺たちを殺す気か!!あんな化物」
「オオムカデ??あれ雑魚っちよ。」
「・・・てよ。スカー?」
返事がない。
「雪。スカーの傷を治してやってくれ」
「そんなテレビゲームじゃないし。そんなのあるわけないっちよ」
「ああ!?マジか?じゃあこいつどーすんの?」
病院に連れていくっち☆」
雪は笑顔で答えた。
―中部の総合病院の組織の特別室。
さっきの乱闘の場所は優衣さん達組織の練習場。
音楽のコンテストでメタクソにダメダシされた俺様はストレス発散にと、スカーに付き合って「念」の練習についてきたってわけだ。
そしたら「実践レベル1」でこれだ(笑)
世の中、甘くないってことだ。
そして
「雪」
優衣さんの仲間で年齢は10代前半位(多分)で
「守」「留」「除」のうちの「留」のチームの召喚士。
優衣さんとスカーにお願いされて練習に付き合ってくれたってわけだ。
正月早々、
「智成、俺はあれからずっと念の練習をしてきた。大丈夫。任せとけ」
スカーが自信満々の笑顔で言っていたのを思い出す。
そいつは今病院のベッドで包帯ぐるぐる巻きになってる(笑)
かわいそうに。優衣さん大御婆様に怒られるだろうな(笑)
バカの「大丈夫」のごり押しのせいで。
まあ はっきりしているのは!!
ぜ・ん・ぶ!スカーが悪い!
俺様も歳をとったものだ。
年が明けて、さらに磨きのかかった上腕二頭筋に騙された。
見抜けなかったよ。
「筋肉」と「念」は関係ないと。
もっと早く気が付くべきだった。
こいつは不器用な奴だったと。
さらについでに、読者のみなさんわかりきっているけれど、念を押して言えば、頭の細胞も筋肉でできているんだと。
1000歩譲って、言うならば、優衣さんからちょくちょくアドバイスを受けていたみたいだから健闘できたらいいなと期待していたのに。
期待したおーれーがーバカだった。
いやいや。バカはスカー。変なオチにするとこだった。
「智成」
「へっ?」
すまなさそうにスカーが包帯の手で頭を軽くかく。
「んだよ?」
「今日はすまない。でも今度は絶対大丈夫だから!!」
「へえへえ。今度は結界の外で観戦しますだよ」
Mr.KINNIKUはまだ実力差を理解していないらしい。
「はぁー年明け早々疲れた・・・」
「大丈夫っちか?智成?」
「ああ」
雪が少し心配そうにうつむく俺様を覗き込む。
「何か飲む?」
「いやいい。疲れたから帰るわ。スカーを頼んだ」
「わかったっち。腕は大丈夫っち?」
雪の語尾につく「っち」はどこの方言訛りだ?と思いつつおれは後姿のまま肩に包帯を巻いていない左手で二人に手を振って病室を出た。
その夜、俺様はライブハウスに潜る。
誰でもいい。とにかく音楽の中に埋めてくれ。
少しだけ休ませてくれ。
何にする?マスターがカウンターで注文を待つ。
「ホットコーヒー」
口の中が切れているが、何かゆっくりしたい気分だ。
アコースティックの曲をするような二人が出てきたし。
そういえばTHE YOUって奴らが1stミニアルバム出すとか表にフライヤーがあったな
(沖縄インディーズミュージック・THE YOU HP)   
http://ip.tosp.co.jp/i.asp?i=theyou2003
そいつらか?
「アコギユニット、テポドン・スクラッチです」
どうやら違うらしい。
誰でもいいや、マッタリさせてくれ。
薄暗いライブハウスで微かな湯気が空間を歪める。そのブラウンは、空間と一体化してしまいそうだ。
小さな音が聞こえる。
カラカラカラ・・・

辺りを見渡す。俺様と同じようにステージに魅入っている客と自分の世界の浸透しているテポドンスクラッチ。
気のせいか。
ギャリギャリギャリ・・・
その小さな音はステージのノイズと溶け込みあって誰も気が付かない。
思ったより、大人っぽい曲を聴かせてくれ俺様は満足してライブハウスを後にした。
ライブハウスのカウンターでは俺様の残したコーヒーの水面に闇が溶け込んでいく。

歌おう 歌おう 

カラカラカラ 頭の中で 転がる音がするよ
ギャリギャリギャリ ほら すぐ傍で 何かが回っているよ
ケラケラケラ 真横で 笑い声がする

地獄の扉が開かれる。
世界各地で一斉に。

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posted by 麦畑 音子(むぎはた ねこ) at 04:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月18日

6章2幕「ボイスレス ブルース」小説ボイスマン

ハーフフィクションです。現実世界への誹謗中傷はお断りです。

6章2幕「ボイスレス ブルース」小説ボイスマン

彼はゆっくりと身体を起こす。
「・・・アア」
言葉など発する必要はない。
彼の周りには誰もいない。
自然と言葉の必要性は失われていく。

窓を開ける。
縦の線。
見慣れた線。
鉄格子。
外へ出れないようにしてある。

この部屋は1階建ての貸家。全部で3部屋あるが全て
鉄格子がつけられている。
付けられたではなく、彼が付けた。
古すぎて借り手がいない。
しかしやや丘の上に建てられているため、西よりは視界が広い。
海が住宅の森の向こう側に見える。
窓も玄関のドアから外には出ることはできない。
他の家と一番違うのは、
玄関。
弁当を差し入れる小さな入り口。
そこに弁当を開けて置く。刑務所のようだ。
同じく画材道具が運び込まれる為の、玄関のドアの下の扉。
生活必需品はそこから運び込まれる。
洗濯機は中に。服は部屋の中に干す。
日差しは入るからそんなに困ることはない。
ちなみに玄関は家の中側からは開けられない。
外側からの鍵のドア。
つまり、中の人間は外側から鍵を開けてくれないと出られない。

彼が自分で望んだこと。

首を少し鳴らして窓の外へ視界を向ける。

いつもと同じ風景が・・・

細かく見ると、実はいつもと同じようで少し違う風景が
この世界の時間を進んだことを証明する。

外の世界と触れ合わないで刺激がなくて
何が芸術か。
誰かがそう言った。
一理あると思った。

芸術は爆発よ
誰かが言った。
そうだよなと思いつつ、
絵がもし爆発物化して武器になるのは嫌だな
と思った。

中学1年になった夏、彼は自分の奥が知りたかった。
本当はすごい揺るがないものが
真っ黒の奥にある真っ赤なそして真っ黒な大きな光。
それは感じることができても見ることができない。
取り出してやりたいが、切り裂けば出るのは血ばかりだし。

小学校6年生の時、大好きな犬の八太郎も人間と同じかと思い、
ナイフで軽く切った。
八太郎はキャインと吠えた。
すぐナイフを止めた。
何で?どうして?
当たり前だ。
八太郎が痛がったから。
その経験を踏まえ、
他の人間にもそういうことはしていけないんだと体感した。
ならば自分でするしかないかと切ってみた。
意外とイメージしていたより、何倍も痛かった。
しかし 心 を知りたい好奇心には勝てず何度か腕を切った。

かけつけた母親は 悲鳴をあげ、病院へと救急車で遊びに行く羽目になった。
その後は学校の先生に 悩みがあったら遠慮なく言いなさいとか
どうしたの 何があったの 学校でいじめられたの?と尋ねてきた。
先生に
「心が見てみたいんです。模型とかないんですか?」
と尋ねたところ、先生は目を丸くして答えた。
「ハッ、何を言うかと思ったら そんなものあるわけないだろ」
とすこし声を荒げた。
やっぱり 学校にも置いていないのか と少し残念な気持ちを悟られないようにし職員室を出ようとした。
知らないものを教える、見せる。それがここの役割と辞典には書いてあったような。
もう一人の女の先生が呼びとめた。
「心が知りたいの?」
しばらく黙った後、先生は少し身振り手振りをくわえて 小さな声で
「心は目をつむったら見える。目ではなく想像感じるものなんだよ」
と教えてくれた。
「水みたいなもの。人間の身体は水でできているから。体中を流れているの」
へぇ。手とか歯とか堅いのに水ねぇ?とも思ったが、
「心は水」
というのは新鮮だった。
「教えてくれてありがとうございました」
と頭を下げて答えた。
「目で見えないの。だから自分を切っちゃ駄目よ。目を瞑って描くの。絵を。心の絵を」
何だか嬉しくなった。

それなら絵を描いてみようと、若いがゆえに短絡な思考で美術部に入り絵に没頭した。
感性の強い年頃ということと素直ということが相まって、どんどん技術を吸収していった。

母さんは犬の件で指導を受けてから、なんだか優しくなった気がする。
でも目元が疲れているように見てたので
「心は水」の話はしないでおこうと思った。
子供なりの気遣いである。

ペットの犬の八太郎には謝った。
顔を舐めてくれた。
ごめんな八太郎。
自分でいつか心を捕まえて見てみよう。
根拠は特になくもそう誓った。

高校の頃、ウソのような出来事が起きた。
10枚連番で買った年末ジャンボ宝くじが当たった。
一億円だった。
母親に半分渡した。
でもなんだかんだで 3000万ほどになった。
それでも高校生の彼にとっては無敵に感じられる気がした。
そこで勇気をだして 旅に出た。
少し旅に出てきます。と高校にも退学届を出し、東北までやってきた。

そして部屋を借りることにした。
絵がかけるまで出ない。
そして描けなければ餓死してしまおう。
そして納得できる絵が描けたら死んでもいい。
その時は満足して死のう。
そう決心した。
お金を計算する。
画材道具。改良費。家賃 電気代・・・は電気はろうそくでいい。
いろいろ計算してみた。
よく分からない。

不動産を渡り歩き、元絵描きの噂を聞いた大家を探し頭を下げてお願いした。
全額払うから 5年くらい貸してくださいと。
ありったけのお金を大家の前に積んだ。

そして弁当を毎日。
一食分でいいから届けてくれないかとお願いした。

あと1か月に一回でいいから画材をまとめて買ってきてくれと。
大家さんは現金をみて、ニヤリと笑い縦にうなずいた。

年齢を考えるとすんなり借りれるわけがない。、
そういった知恵もなく、保証人とやらが必要なのも知らない。
それを聞いたときにはがっくりした。
だがどうしたことか家の番号と住所を書くだけでいいと言ってくれた。
大家さんの眼は目の前に積まれているお金しか見ていなかった。
頭に生えた白髪がこれまでの人生の苦労を物語っているようにも見えた。

弁当はお店と契約して一日一食届ける。
1リットルの水と共に。

玄関や窓は好きなように改造していい。
玄関は内側からは開かないようにする。

しかもこちらから連絡がない限りドアを外から開けることはないと約束してくれた。

電話は大家さんに夜中にはかけない。
しかし昼電話が鳴ったらとるように努めてくれと。
万が一、餓死でもして、大家さんに迷惑かけてはいけないので、念書を書いた。
自らの意思でここにいると。

弁当も届かなかったら餓死。
そればかりは信頼するしかない。
そこを疑っている気力がもったいない。
元 画家をどこかで信じたかった。

働く気はなかった。
時間がもったいない。
画家になりたい。
お金を稼ぐ意味。
それは絵を描くためだけの作業。
お金があるのなら絵を描くということを職業とする場合を除いて働く意味はない。
しかし自分自身が納得いかない絵で画家と名乗りたくもない。
でも納得してしまったら、画家で飯を食っていきたいか?というとそうでもない。

ただ今、描きたいのだ。
もっと正論じゃないと駄目なのか?
芸術ってそんな理論固まったものなのか?
今、描きたいんだ。
感じるままに描きたいんだ。
何も考えず。
絵のことだけを脳に宿して。
身体の養分を全て絵に注入したい。
それ以外、意味など万分の一もない。

この作業が終わったら 生きている意味なんてないと思った。
その反面、出版社とか絵関係の会社に電話をかけまくろうとも考えていた。

作品を理解してもらう必要はないが、そのまま捨てられたらそれは可哀そうだ。
せめて売ってもらうなり 飾ってもらおうと思う。
認められたいのかと思ったが、少しはその気持ちはあった。

ああ 凡人だ。

彼は自分の本音を呪った。
なんだかんだ言っても名声が欲しいのだ。
自分自身の行動に酔いたいのか?
いや違う!!
どこかでその自分のかっこつけに拍子抜けしている。
いや拍子抜けをしたふりをした。
まだ本音と 向き合ってない。
心を描くのは 生半可じゃ無理な気がした。
逃げ出さないように鉄格子をかけ、玄関を閉め、向き合うようにしたのは正解だった。

凡人なりの追い込み方をするしかない。
極上の絵を見てみたい。
描いてみたい。
この手で。

それが本音と信じたかった。

最初の年。
食事を食べなかったり、外が明るかったり いろいろ試したが、
無理だとわかった。

2年目。
絵が下手だということに気がついた。
似ていてもピカソとは違う次元だということを気づく。
眼力だけ成長しているのか?
ピカソの深い心が少しだけ感じられたような気になれたのはもしかして少しでも画力が上達した証拠なのだろうか?

3年目。
外の人や出来事が気になり始めた。
どうしたのだろう。
自分の中がさらにわからない。

4年目。
感情が動物のように。うごめく。
筆が狂ったように軽い。
いやぁ 最高。

5年目。
到達できないのは神のいたずらか。
それともただ 時間が足りないのか。
腕が上がらない。
目の前がなんだかずっと薄暗い気がする。
外の世界で太陽に何か異変でも起きたのだろうか?
頭の中で変な音が鳴っている。
糸が切れてカラカラ何かが回ってる。
初めての感覚だ。いいぞ。いいぞ。

6年目。
大家から手紙あり。
近所から、あらぬ噂を立てられて困っている。
10ヶ月位で出て行ってもらえないか?とある。
あの野郎。
連絡するなと約束したのに。
破ったな。
いい所なのに。
邪魔したな。
・・・殺してやる。

部屋を眺める。
積まれたスケッチの数々。
大家のせいでせっかく繋がっていた流れが止められてしまった。
許さねぇ。握る拳に力が無意識に入る。

しかし怒りと裏腹に
漠然と溢れる画材に追いやられ
部屋の隅に崩れ落ちる。
気力が途切れてしまった。

突如、海を誰かが走る画像が。
「誰だ・・・?」
しばらく頭のイメージを追う。
埃のかぶった受話器を取る。
ここ6年、一度も使ったことがない。
殺意の代わりに湧き出る口調でを大家に浮かぶ案をぶつける。

10ヶ月と言わず、後1ヶ月で出る。
その代り、残りの必要分のお金で、ありったけの画材と水をくれ。
大量なのは承知してる。
頼むから持ってきてくれと。
大家は戸惑ったが了解した。

「絵が完成したら是非 わしに一番に見せてくれないか」
と一言付け加えて。

契約するときの大家が浮かんだ。
勝手に大家は絵を売り飛ばすつもりかなとも思った。

描いた後は好きにしたらいい。
自分という存在がそこにたどり着けるのか、描けるかどうかそれが何よりも大事なことだ。

大家だって嫌な顔せず付き合ってくれた。
普通なら断るだろう。
いくら画家の端くれでもトラブルマンはお断りが普通だ。

殺してやると思っていた感情は感謝に変わっていた。
自分自身でするより上手に売ってくれるし、そっちの方がいろんな人に見てもらえる気がした。
描ければ満足。
評価は勝手にすればいい。

どこまでいけるのか。
どこに今画家として立っているのか。

少年は6年のうちにいつの間にか面影は瞳に残しただけの青年になっていた。

元 少年は 暗い空間の中で

絵具を白い空間に
叩きつけた。優しくなでた。躍らせた。浮かばせた。
重ねた。溶かした。混ぜた。広げた。
水を飲んだ。水を飲んだ。頭のイメージをひたすら
目を瞑って追った。
頭の絵が 目の前に 目の前の絵は 夢から現物へ
心の着色剤は 命の息吹を得て 
時間なんてわからない。
時間なんて今は意味がない。

「・・・」
「・・・」
「・・・」

3枚「泉」「命」「水」

何故だか立て続けに描けた。
自分が書いたことが信じられず
感動しすぎて自分自身の背骨に大きな寒気が走った。

どれ位眺めていただろうか?
思考の歯車がキリキリと回りだした。
ギャリギャリギャリ。
脳の中に響く。

太陽は沈んでいるが、
大家を呼ぶことにした。ここ数年で言葉を交わした唯一の人間。

淡々と電話で説明をすると ああ ああ と返事が返ってきた。
一時間程すると、クーペで大家がやってきた。

久々に近場で見る人間だ。
白髪は最初の頃より増えている気がした。
気のせいかもしれないが。

大家は本当は一番最初に見て、場合によっては売り払うことを考えていた。
その売上金を誤魔化して、彼に一部だけ渡すことも少し企んでいた。
6年も付き合ってやったんだ。変な噂がこいつのせいで広まっている。
商売あがったりだ。冗談じゃない。
少しくらい大人の生き方を教えてやろう。

しかしその 画力が 全てを奪いさった。

大家は大家の前に画家だった。画家の端くれだった。
何十年ぶりに殴られたような。そして一枚には優しく包まれたような。
そして最後の一枚には心の奥が握られた。

圧倒的画力の前に 小細工な生き方は吹き飛んだ。

自分が進めなかった道。
自分が憧れていた道。
彼は歩いている。
しかも凄い事は彼は若いうちに この境地にたどり着いた。

まだこんな絵が創造される
そう考えるだけで、大家の退屈に感じていた日常の世界が変わってしまった。
何をこれ以上望む?

本物は 偽物など 圧倒的にかき消す。
その力を絶対的に持つ。
その絵の迫力や優しさはどうにもならない。
人間の手は、ここまでできるのか・・・。

大家は視点が定まらない感じだった。
口は半開きだ。

大家から絵に視線を移した。
二人とも黙っていた。
しばらく黙っていた。
そして顔を見合わせた。
暗黙のまま両手で互いの手を握った。

「今まで協力してくれて本当にありがとう」
「最初に拝めたことを光栄に思う。わしの方こそ、お礼を言わせてくれ」

大家の目が潤んでいるのがわかった。
自分の鏡が目の前で手を握っているような気がした。

とりあえず3枚とも持って行って美術会に展示等をしてもらうことにした。

連絡するからそれまでは来ないでくれ。
彼は、そう告げると大家を見送った。
大家は車に乗り込むと手を軽く振った。
柄にもなく大の大人が互いに見えなくなるまで手を振り続けた。
絵に関しては信用できる。

それだけは理解してしまった。

その日は玄関を開けたまま眠った。
どれ位眠ったのかわからない。
夜風は寒かったが 現実の世界とつながっている感じが懐かしかった。

二日ほど過ぎ
そしてその感情を波うつように今度は悲しみがやってきた。
幸せの出来事と不幸せの出来事は客観的に違う。
でも幸せの感情と悲しみの感情は表裏一体なのだ。
感情は心。波が高く上がればその分深く沈む。

満足の底に眠る感情は燃える怒り
そして静かな静かな氷の色をした死の光。

声にならないような感情が 溢れた。

誰とも会いたくなくなった。
確信だけがはっきりと輪郭をなした。

「これ以上はもうない」
その衝動が満足感とともに襲う。

水を2リットル、一気に飲んだ。
横になった。水は心の奥にまで浸みていった。
その瞬間 それまで書いてきた絵がゴミに思えた。
切り刻んだ。最後の絵は大家が既に持っていった。
それ以外は全部ゴミだ。
ゴミはいらない。
身体も、もうゴミだ。

目を閉じた。
どれ位眠っただろうか。
天井が高い気がする。
左手を見てみる。
ずいぶんと汚いな
薄暗い中 見つめる。

これ以上のものは描けない
でも せめてこれ同等はもう何枚か書いてみたいもんだ。
よし。

受話器を取って電話に貼られた番号通りにプッシュホンを押す。
大家が電話に驚いたような声で答える。

こちらから連絡するなと言われていたので
いつ伝えたらいいものか、困っていたらしい。

絵が2枚、即売したそうだ。
数千万。こんな時代に不釣り合いな額だ。

1枚は大家が是非とも売ってほしいので、展示しなかったそうだ。
今までのお礼にそれはやると言った。
その代りに、売れた絵の高い方のお金は母に渡してくれ。

残り一枚は手数料として大家にやることにした。

大家は謙虚な声でこういった

「先生、私は絵を一枚頂けただけで光栄だ。金は要らない。これからも絵を描き続けてくれ」と。

そんなおべっちゃらや建前はいらない。
あなたが昔、承諾してくれなければあの絵はない。
受け取れ。

「しかし、先生、お気持は嬉・・」

電話を切った。
怒りからではない。
建前は聞きたくない。
先生などではない。
描きたいものを描き切っただけだ
根本的に自分のしたいことをしただけだ。
大家には感謝してもしきれない。

作業の邪魔した時は殺そうと思ってたが、
その感情も役に立った気が今はする。

隅々まで望むように描き切れた、この感動は誰にもわかるまい。

「芸術は絵に限らず、音楽も、自然も人もきっと突き詰めていけば、全ては「世界絵図」なのだ」

変な確信が嬉しくて男はしばらく口を開けず歌った。
声に出さずして。
音のないハミングが画家の世界を色つける。

これこそがひとつ全てに繋がっている空気
音楽家ではないが歌える。
完全はないが完璧はある。

夢見たキャンパスはやはり白かった。
この世界の最後の最後まで!!

次の日 彼は崖から身を投げた。

その瞬間を偶然にも見てしまったカップルから通報があり
警察の捜索が始まった。
カップルの証言によると、男はゆっくりだが思いつめた感じではなかったように見えたという。

その死体が見つかることはなかった。

カップルが殺人容疑で疑われることはなかった。
なぜならすぐに部屋に彼の直筆と思われる大家に対しての手紙が見つかったからだ。

「身体はゴミ 心は水 芸術は無限 黄泉は 黄色い泉と描くだろう? 興味が湧いた 止められそうもない だから旅に出てみるよ 帰ってきたら 素敵な絵をプレゼントするよ ありがとう」

芸術家の間で彼の才能を惜しみ、大家の持つ1枚を除き、2枚の絵は高額で世界の資産家の間を回ることになる。

カラカラカラ 頭の中で 転がる音がするよ。
ギャリギャリギャリ ほら すぐ傍で 何かが回っているよ。
ケラケラケラ 真横で 笑い声がする。

彼は「画家」と成って 孤高の人として闇の中へと消えた。


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6章3幕「アメリカンコーヒーは闇夜へ誘うブラウンだ」
posted by 麦畑 音子(むぎはた ねこ) at 14:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年08月29日

6章1幕「メタモルフォーゼ・バタフライ」小説ボイスマン

6章1幕「メタモルフォーゼ・バタフライ」小説ボイスマン
お断り※この話はハーフフィクションです。現実世界での人に対しての誹謗中傷は一切お断りです。そのマナーが守れない人は読むのを禁じます。


「ちぇ」

おれは無意識に軽く舌打ちをした。
雨かよ。
雨は嫌いじゃないけどよ。

今からコンテストだっつーの。

雨。
どちらかというと大雨。いや、小雨。
違うな。中雨。

そうだ中雨。

・・・中雨って。雨?

小雨 雨(中雨)大雨

正式にはそういう表現でいいのか?
暇な時、ヤフー知恵袋でも使って質問してみよう。

朝だというのに 涼しげな夏の雨。涼しげと言っても結構大粒だ。
今日一日は止まないだろう。

コンテストに応募した。
当たり前に予選は通った

おれを誰だと思ってやがる。

おれは智成。
読者は知っていると思うが、未来のスーバーロックスターだ。
音楽業界へ羽ばたいてやるぜ。
ああ・・・だるい。

シャーロックを解散とか言うから 俺一人でもできるってーの思い知らせてやるところだ。
そこで奴が泣いて戻ってきて、土下座したところで脳噛ネウロ並の悪顔で踏みつけて

「そこまで頭を下げるのなら仕方がないな〜ではまた活動してやるか」

と言ってやる。

ちくしょー石原め。
マジで連絡しねーし。

おれは気分を落ち着けるためメンソールの煙草を吸った。
メンソールは吸わなかったが吸ってみるとこれはこれで悪くない。
最近本数が増えている。

アパートの下で一服する。

ふー。

白い煙が空間に薄く消えていく。

ふと見ると少し離れた場所に蝶がいる。
アゲハ蝶だ。
おれは煙草を口にくわえたまま、荷物をそっと置いて近寄る。

タンポポに乗っかっていた蝶の羽は水滴が乗って普段見る蝶より神秘的で不思議だった。

蝶はピクリとも動かない。

買ったばかりのギターケースには以前の破れたギターケースに
昔、里美がつけた仮面ライダーのキーホルダーがついている。

名前は知らない。青い結構かっこいいサイバーなやつだ。
そいつがギタートップあたりで揺れている。

あれ?横についている四つ葉のクローバーのガラスのアクセサリは・・・?
誰からもらったっけ?

思い出せない。

傘をさしてギターが濡れないようにする。
エフェクターはケースごとゴミ袋に入れてあるから大丈夫。

いくかな。遅刻してリハできないのも困るし。

おれは仕方なさそうに歩きだした。
今日は何かダルイ。

そりゃそうだ。昨日寝たのは夜の3時。

現在 朝7時10分
約4時間の睡眠だ。

ライブハウスまで3時間。
ミーティングとリハーサルは13時開始で確か12バンド位、今日は演奏するとか聞いたな。

みてろよ。みてろよ。
誰に対して言っているのか。おれは世の中に対して言っているのだろう。

グー

腹は正直だ。気張るのは今は止めておこう。
まずはマクドに寄り道して、昼前には着くようにゆっくり行こう。
「チョウチョ♪チョウチョ♪この指止まれ♪・・・あれ?なんだっけ?こ・の・ゆ・び・と・ま・れ♪・・・違うような・・・いいか別に」

「チョウチョ♪チョウチョ♪」
歌詞をぐちゃぐちゃにして鼻歌を歌った。空気が涼しい。

傘の大部分をギターケースに奪われゆっくりと雨の中を歩いた。
どうしたんだって?そういう気分だったんだ。その日は。

一人にも慣れなきゃな。

2章「ボイスレス・ブルース」へ続く。
posted by 麦畑 音子(むぎはた ねこ) at 01:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年06月12日

5章4幕「竜一=英訳ファーストドラゴン!?」小説「ボイスマン」

5章4幕「竜一=英訳ファーストドラゴン!?」小説「ボイスマン」
お断り※この話はハーフフィクションです。現実世界での人に対しての誹謗中傷は一切お断りです。そのマナーが守れない人は読むのを禁じます。


今日は丸福主催来沖ライブだ。
その対バンの一つにサイコメタルバンド、恐さんと竜一さん率いる「The bullet of the god」(神の銃弾)が含まれていた。相変わらず客はキてる奴が多い!!
でもそれは関係ない。
それぐらい暮らしの中でストレスを感じている人は多いということなのだろう。
「KILL YOU!!」恐の声が響き渡る!!不可思議な静かな波のような音楽から爆音の波に変わる。
最後の曲「Don't Need」が終わると、
「次の奴らも全部要らねぇ!全員飲み込んじまえ!テメエら!」
恐はボーカルスタンドを客席に投げつけてステージから下がった。
せっかく沖縄までやってきたんだ、出迎えてやれということだ。
竜一もステージから楽屋に戻ると、興奮を落ち着かせるようにそして少し深い息を吐いた。
丸福に演奏が変わり、青い闇の中、しばらくベース独特の圧迫音が一定のリズムで刻まれる。
浮かび上がるシルエット。いきなり、丸福のフックのツインバスドラの低音が空間を圧埋する!
県外のバンドは凄い、まだまだ世界は広い。
イイことだ。
それから約40分後・・・盛り上がりに盛り上がったライブは終了した。
振り返ってみると、恐のボーカルスタンドが当たり怪我した客含め、本日の負傷者4人。
丸福ライブは無事(?)終了した。

竜一は丸福メンバーにウィースと声をかけ、ライブハウスから出ることにした。
恐と他のメンバーは丸福と打ち上げをするらしい。
そんな気には今日はなれない。
「今日はすまんが先帰る。ゆっくり休みたい。恐、暴れるなよ」
「ああ〜!?」と返事が返ってきた。
「・・・」
恐はどうやらわかってくれたらしい。
奴が返事するうちは大丈夫な証拠。

ライブハウスを出ると、取り巻きが待っている。群がるのを優しく払いのける。
「恐はまだ中。打ち上げはBar○○○で。また戻ってくるから、一緒に飲むなら恐達と移動して」
嘘だ。戻る気などない。
俺はベースを担ぎなおし、駐車場へ向かう。

俺は大通りから少し横道に入った駐車場に向かう。
気がつくと、少し早足の足音が後ろから聞こえる。
振り返ると足音が止まり、そこに見覚えのない女が立っていた。
「ちゃお☆ベースさん」
「誰だ?」
女は俺の質問をスルーし喋る。
「りゅういちさん飲酒運転はいけないな〜。帰っちゃうの?」
何だ?こいつは??
「・・・。あぁ今日は帰る。それに飲酒運転じゃねえ。酒は一滴も飲んでねぇよ」
「なら、りゅういち、私乗せて。家まで連れてってよ」
「あ?」
無意識にバンドメンバーとの会話のような態度を出してしまった。
なんだ?この図々しい奴は?もう呼び捨てか?
「ねぇ。ベースは私に背負わせてよ。私が腰に手を回せないじゃない」
女はそう言いながら、既に俺の背負っているベースケースに手を伸ばしている。
俺から優しくベースを奪い取ると、もぞもぞしながら背負う。
「・・・」
「よしっ!いこ!・・・」
眉間にシワを寄せる俺を怖がることもなく、笑っている。
「・・・」
「メット汗臭いぞ・・・」
「貸してくれるの?ありがと!!」
俺は一つしかないフルフェイスのメットをそいつに手渡した。
女がもし転倒して顔でも怪我でもしたらいけない。
まあ俺が運転して99.9999999%転倒はないがな。
車にぶつけられる可能性もあるし。
まあそれでも、99.999998%かわしてみせるけどな。
女は嫌な顔一つせずメットをかぶりはじめた。
メットをかぶったその姿は、身体が細いだけに頭だけでっかちのマッチ棒みたいシルエットになった。
「乗れ」
「あいよ〜」
そいつは慣れないベースを背負っているからバイクに跨(またが)るのに少し時間がかかった。
威勢のいい姿とのギャップが少し愉快だった。
とりあえずバイクを走らせた。
家が逆方向ならUターンすればいい。
「家はどこだ?浦添か?どこで降ろせばいい?」
「え・・・?りゅういちの家!」
「ああっ!?」
赤信号で一度バイクが停車する。
「家は何処だ?」
女は少し大きな声で言った。
「りゅういちの部屋に行きたい」
俺は今日は何のために打ち上げ行かないんだかわからない。
「ほらほら、信号青!青だよ!!」
背中を急かすように叩く。
面倒くさいが、別に構わないか。
あまりうっとうしかったら帰ってもらおう。
おれは部屋に帰宅すると、
愛用のベースを軽く拭いて、ベース立てに立てた。
「へー、女よりまずベースなの?」
「そんなことないさ。ただ少しぐらい労(ねぎら)ってやらなきゃ、こいつ可哀そうだろ」
勝手に上がるかと思っていた女は、意外にも勝手に部屋に上がらず、玄関で立ち尽くしてキョロキョロ部屋を見渡している。
「どうした?入っていいぞ」
「ありがと。へー、思ったより部屋が綺麗だね」
「ああ、ライブ前になると俺は部屋を片付けして、ゆっくりするんだ。まぁ一種の癖みたいなもんだ」
俺は羽織っている上着を脱ぐと、風呂に入ることにした。今日はゆっくりしたい。
「お風呂?」
「ああ」
「私も一緒に入る」
「ああ?断る。TVでも見てろ」
「えー!」
「えー、じゃねえ」
「ぶー!」
「ぶー、でもねえ」
おれは風呂のドアを開けた。
「TVでも見てろ、飲みもんは冷蔵庫の勝手に飲んでいいから」
ライブ後は汗と煙草まみれで、それが気持ち良いと感じる時と、少しでも早く流してしまいたい時に分かれる。
今日は早くすっきりしたい。きっと演奏も納得いかないライブだったのかもしれない。
・・・「だったかもしれない」じゃない。
自分がした演奏だ。
あやふやにしてどうする。
納得いかなかった。
何かが足りないライブだった。
そう考えながら髪を洗う。何だ?何が足りなかった?それとも満たされすぎたのか?
自分の心なのにわからない。それは時として苦痛である。
10分ほど軽くシャワーを浴びて、下着とTシャツで部屋へ戻る。
反射的に人がいるのに目がいく。
「お風呂終わったんだ」
そういえば、こいつがいたんだった。
「・・・私もお風呂入りたい」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・どうぞ、バスタオルはそこ」
俺は髪をタオルで拭きながら冷蔵庫からビールを一本取る。
部屋に戻り明かりを間接照明に切り替える。
別に女を誘惑するとかそういうんじゃない。
俺は誰がいようがいまいが、考え事や疲れた時にはそうする。
ここは俺の部屋だ。
俺のペースでいい。
ベースのようにリズムを乱すことなく、自分のリズムで音の土台を作るように。
俺は軽くドライヤーで髪を乾かした後、女がつけたTVの音を小さくし、俺は床に置いた大きなビーズのクッションにもたれかかる。
片ひざを立てた状態でビールを持ち、天井を斜めに見上げる。
見つめながら独り言を言っていた。
「あいつのギターを支えて弾けたライブは結構楽しかったなぁ」
DAIのギターが耳に残ってる。
あいつにとって、俺の音はどれだけの存在だったのだろうか。
俺はどの位のベーシストなのか。
静かになるとそのことばかりが気になってしまう。
気分転換にどっか引っ越すかな。
切上のやつアパートの近くにでも引っ越すか。
そしたらあいつびびるだろうな。
少し酔ってきたか。
理性の庭があるとするなら、その端々に何かが浮かんでいる。
そこに意識をやるとそいつは隠れてしまう。
それが俺の探している答えにどうしても思えてしまう。
今度は立てたベースに目をやる。
・・・
・・・
ベースは何も語らない。
・・・
・・・
俺はお前の何だ??
・・・
ベースはただそこに在る。
俺はお前か?
・・・
少し酔いがまわり始めたのか。
何度かその問いかけをしてるうちに
軽い眠気が襲う。
シャワーの小さな音と、
TVの笑い声のような音が端っこで動いている。
俺は何をすべきだ?
頭の片隅に何かがある。
俺はそれを見つめない。
きっとわかっているんだ。
「くだらねぇ」
口から無意識に出た。
それは「くだらないことを考えている自分」ということではなく、「自分の考えていることすらわからない苛立ち」に対してだ。
しばらくすると、女が呼んだ。
「りゅういち〜、Tシャツ貸して」
「・・・ああ」
Tシャツをドアの間から伸びている手に渡す。
「はぁー」
再び部屋に戻り座りこむ。
と同時に女がTシャツと下着と思われる姿で俺の横に座り身体を寄せる。
「お風呂ありがと」
女は頬に軽くキスをした。
「ドライヤー使っていいぞ」
「ありがとー☆」
おれは女のTシャツの後ろ姿を見ていた。
薄暗い部屋に浮かぶシルエットは不思議な感じがした。
しばらく機械音が響きわたる。
その音が空間に吸い込まれると同時に、そいつは俺の左腕を両腕で抱えるように身体を寄せてきた。
「えへへ」
俺は一度そいつの顔を見ると再び天井に視線を戻した。
隣に誰かいるっていうのは悪い気分じゃない。
しばらくTVの雑音の中、おれらは身を寄せあっていた。
「りゅういち、りゅういち」
「ん?」
「りゅういちって、歌詞カードに書いてあるように竜一なの?漢字」
「ああ」
「かっこいいね。竜一、英語だとファーストドラゴンかぁ」
ファーストドラゴン・・・
突っ込みたいがどう突っ込んでいいのかわからない。
一人で楽しそうに笑っている女。
お前の名前は口元まで出かけた時、
「私の名前は茜。あかねって呼んで」
と先に言われてしまった。
「わかった」
「フフフッ」
茜は嬉しそうに笑った。
その時の顔は、とても人間味のあるかわいい顔だった。。
少しだけ何だかわからないが救われた気がした。
それから10秒くらいすると
電話が着信とともに震える。
理性が呼ぶ。
別にいいじゃないか。
どうせ恐が暴れているんだろ。
いつものことだ。
いつもの・・・
いつもの・・・
はぁ!
俺はため息と苛立ち混じりに携帯の通話ボタンを押す。
バンドメンバーの明だ。
「竜一さん、どこいるんすか?恐さんが・・・暴れて・・・止めてくださいよ」
「ああ?家だ。無理。明、お前がどうにかしろ」
「無理無理無理。警察呼んでもいいですか?っていうかこのままじゃ店の人が警察呼ぶって、他の奴らがそれをちょっとお願いして止めているとこで、早く来てくださいよ〜」
半泣きだ。
「ああ!フックさんと取っ組み合いが始まった!!早く来てくださいよ〜」
「どうにもならん」
「今度警察沙汰になったら、今度こそライブできなくなりますよ〜」
「・・・あ〜き〜ら〜」
自分では何もせず泣きごとばかり言いやがって・・・
・・・恐も明も殺す。
「タクシーで行こ、竜一」
「いいよ、バイクで行こう。サッといくだけだ」
「駄目よ!さっき警察がいたでしょ!」
「俺は、ノーヘルで捕まらなかったぞ」
「駄目なもんはダメ!なら私がタクシー代出すから」
「いや。恐達から取る」
俺達は着替えすぐさまタクシーを拾った。
怒りを右手に集めつつ、バーに入ると意外な光景がそこにはあった。
丸福のフックが恐を押さえつけて皮ジャンで縛り付けた後だった。
「へぇ!」
俺は感嘆の声を上げた。
「ライブ後に人を殴るわけにはいかん。今日は楽しかったし、また対バンしてくれ。神の銃弾さん。でもこいつは酒グセ悪すぎ」
押さえつけたとされるフックは爽やかに笑ってそう言った。
「すまん。リーダーがこんなで。本当に悪いことした」
「気にすんな」
恐を家まで送ったり、ファンをなだめたりで、結局2時間ほど時間が潰された。
完全にしらけた俺と茜はそのまま部屋に戻らず部屋の近くのBARに飲みに出かけた。
朝方、日付指定のない約束をし「仕事があるの。またね」と手を振り、茜は颯爽(さっそう)とタクシーに乗って朝の町へ消えた。
俺は部屋に帰り、何とも実感のない昨夜の空間を思い出すように何故だか、己の手の平を何度も見つめていた。

6章へ続く







posted by 麦畑 音子(むぎはた ねこ) at 01:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年06月01日

5章3幕「Park Fight 切上 VS DAI」小説「ボイスマン」

5章3幕「Park Fight 切上 VS DAI」小説「ボイスマン」
お断り※この話はハーフフィクションです。現実世界での人に対しての誹謗中傷は一切お断りです。そのマナーが守れない人は読むのを禁じます。

DAIはWiz脱退後、早速曲作りを始めた。
ドラムを打ち、キーボードやギターを重ねてみた。
曲作りってのは、最初は本当にシンプルなもんだ。
それか複雑なフレーズから先か。
そのどっちかだと思う。
それはいいとして、徹夜でBメロが何度作り直してもどうもしっくりこない。
振り返り時計を見ると「6:25」。
AMだ。
もう日曜日か。
曲を作り始めると日付感覚がわからなくなる。
眠くはないので飯を調達がてらドライブをすることにした。
なんとなくそんな気分だったのだ。
B'zの「愛のままにわがままに僕は君だけを傷つけない」を周りの人に迷惑かけないように音を少し調整してそれでも気持ちの分大きくして、
脇道を走る。
JOYもいい。
今はシングルが8cmタイプのは無くなってしまった。
再発売されたCDの方だ。
リピートをかける。
ミュージシャンは曲を作る時、何度も何度も気がつけば何百回も曲を聴きなおす。
それが普通だと思う。
その作業をしているからか、リピートで聴くの嫌だという気持ちはわからない。
まして、こうやってプライベートで聴く分は、制作中と違って、じっくり聴かなくていい。
だから何とも感じない。もちろん耳を休ませることもある。
でも音楽は基本聴く側は娯楽だ。その姿勢を忘れたら売れるものは作れない。
「そう信じる者しか救わないせこい神様拝むよりは、僕といっしょにいる方が気持ちよくなれるから ツライつらいつらいとわめいているばかりじゃ心にしわが増えるだけ ふたりだから楽しく踊ろうよ」
愛のままにわがままに〜♪とサビを一緒に歌う。B'zはかっこいい。
俺はふとからの助手席に目をやった。
大通りは見慣れていたので脇道を適当に走らせながらゆっくり北上した。
ふと横に公園?を発見した。
へぇ〜 公園と呼ぶには大きそうな雰囲気に少し感動を覚え中に入っていた。
爽やかな朝は元気が出る。
少しだけ幸福感に包まれた。
右手に大きな池がある。小さな橋もある。
立派な公園だ。
その池に沿ってベンチが並んでいる。
1人を除いて座っている人は誰もいない。
ウォーキングしてる人は何人かいるが。
沖縄は夜型社会というからそのせいかもしれない。
そこに見覚えのある彼はいた。
ベンチで座りながら寝ている。
智成さんだ。
朝早くからゆっくりしているのかな?
少し同志ができたようで嬉しくなった。
近寄ってみる。
「智成さん?」
彼は薄眼を開ける。
「んぁ?」
めちゃ酒臭い。
しまった。
こいつただの酔っ払いだ。
「この人は昨日から飲んでいたんだな」
飲むのは自由だが、なんとなく気持ちがげんなりした。
「ふあああぁ〜」
彼は口の中の虫歯が一目でわかりそうなほど、大きな欠伸(あくび)をした。
「あれぇ?DAIさぁん??あれぇ?」
明らかに酔っぱらいだ。
少し話して別の場所行こう。
酔っ払いはベンチの横を手でポンポンと叩く。
「飲んでたんすか?何か飲みます?」
俺の親切な言葉を無視し、酔っ払いはベンチの横を手でポンポンと叩く。
「せっかくだから飲んだら?」
たちの悪い酔っ払いは酒を勧める。
「いや、車なんで」
「大丈夫大丈夫〜」
何がどう大丈夫か説明してもらいたい。
「まぁまぁそう言わずに」
飲酒運転は犯罪だろが。
なかなか、こういったノリはうざい。
両手で壁を作りなるべく気分を害さないように押し返す。
諦めたように彼は酒を飲み始めた。
「あーそーいえばー」
何だ!?うざ男。
「コーヒーあるぅ、はい」
コーヒーを無理やり手渡した。
少しぐらい敬語じゃなくてもいいだろう。
なんとなくそんな気分だった。
今日は「気分」で過ごしてみよう。
「飲み会か何かだったんすか?」
「友人の家でコンパで知り合った娘を呼んで飲んでて・・・で目が覚めたら・・・」
顎に指をあててうなっている。
どうやらその後、記憶が飛んだらしい。
「今日は暇だし」
白い買い物袋から酒を取り出す。
ウイスキーの原液の瓶をを取り出した。
300mlぐらいだろうか?
「それ今から飲むんすか?度数強いでしょ?」
「おぅコーラと混ぜたらうまいよ」
空の瓶にウイスキーとぬるいコーラーを混ぜている。
何でもありだな。こうなりゃ。
「メロンパンあるよ」
腹の虫がもらえと鳴く。
ありがとう、とお礼をいい手に取る。
彼はビニールからもうひとつコーヒーパンを取り出し食べだした。
俺は彼が食べたのを見てパンを口にした。
久々に口にしたパンはうまかった。
智成さんは少し崩れ落ちるような座り方で。
俺は自然体に座り目の前の自然と人工の融合体を見ていた。
そこにカモや謎の鳥が気持ちよく泳いでいる。
「大きな池っすね〜」
「そうだな〜」
「シャーロックの今後の予定は?」
「さぁあ?」
ウイスキーの入った瓶をぐっと飲む。
「俺はWizを抜けました」
「そうか」
彼は続けてぐっと酒を飲んだ。
しばらく黙った後、そして
「別にいいんじゃねぇ?考えて出した答えなら」
「恋人にせよ、メンバーにせよ、ずっと笑って傍に居れたら最高なんだけどな・・・」
ふと智成さんを見ると、視線は広がる空を見ていた。
うつろなのか、酔っ払っているからか確認できないけれど意味ありげに聞こえた。
「なるようになるさ」
その少し投げやりな言葉に少しだけ心が軽くなった。
やはりどこかで罪の意識はあったのかもしれない。
「竜一さん暴れたか?」
「いや、でも一発だけ殴られました」
「そっか」
「でもむかつくとかそういうんじゃなくて」
「そっちの伝えたいことは大体わかるよ。竜一さんはおいらの師匠だからな」
それからは二人とも何も話さず
ゆっくりした時間が過ぎていった。
時々、鳥の鳴き声や、木々の揺れる音だけが身体の中を通っていった。
後から振り返れば、ほんの数十分だと思うが素の自分がそこにはいたと思う。
「そーだ〜、竜一師匠から習ったスカー対策の最強技を試しに喰らえ」
「はっ!?」
突然意味がわからない内容だ。
スカー対策ってなんだ?
ふらふら彼は立ち上がると俺も警戒して立ち上がる。
ふと見ると彼の瓶は空のようだ・・・その傍にあるウイスキーの原液も空に見える。
気のせいだろうか?この短時間で飲めるはずがない。
両手で接近を防ぐ。
うわっめちゃウイスキーくさっ。
「甘い!!そんなことでは防げない!スカー!」
スカーじゃないってーの。
「ちょっとやめてくださ・・・」
力で対抗しようとする、引き寄せられる。
見た目より力がある。
・・・やばい。
「貴様は自分で紹介した工事現場のバイトで墓穴を掘ったのだーわはははは」」
何のことだ!?
「わわわわ・・・」
やばい、やばい、やばい。
彼は一気に俺を抱えたまま池の柵に近づく。
勢いに任せ柵に俺を引っ張りながら柵を登る。
駄目だ。こうなれば、俺は皮ジャンの中に手を入れる。
「これぞ、新奥義ブレーーーン・・・」
身体が持ち上がる。
俺は携帯財布を逆さまになった視界の中草むらに向かって思いっきり投げた。
「バスタァァーー」
身体が池に向かって投げられる。
二人の身体が池に向かって飛んでいく。
「ァア!!キリモミ!!(切上のもじりのつもり)」
水面ギリギリで体がひねられる。
顔の前に水面。
「でえっ!!」
バシャーン。水しぶきが広がり、鳥たちが軽く飛び跳ねる。
ゴボボボボ。イテェ。何が何だかわからん。
とにかく陸へ上らねば。
息が・・息が・・・
皮ジャンだし気は抜けん。
俺は慌てて濁った水の中、薄眼を開けて水面からの光を追った。
「ぶはあああ」
陸に上がる。服が重い。
ゼーゼーゼー。
とんでもない災難だ。
あの酔っ払いは?
息を整えながら池を振り返ると、
なんか池でジタバタしている。
・・・
・・・くたばれ。
・・・
・・・ジタバタするその姿を見てると哀れになってきた。
・・・
・・・あれ?
マジ溺れている??
おいおい溺れているよ!?
・・・ったく。何やってんだ。この人は。
皮ジャンを脱ぐ。
見殺しにしたらどんな罪になるかわからん。
とにかく助けるか。
池に飛び込む。
彼は必至でしがみついてくる。
「わー大丈夫だから暴れるなー」
酔っ払いに言葉は通じない。
それから5.6分後無事救出。
周りのウォーキングしていて立ち止まった方に心配かけました、とひたすら謝るはめに。
彼は、びしょ濡れのまま、寝ていた・・・。
はぁ。
そういえば、俺はキョロキョロ周りを見渡す。
先ほど草むらに投げつけた、携帯と財布を発見。
両方とも無事だ。
良かった。
竜一に電話をかける。
「・・アの邪魔」と1.3秒で切られる。
早すぎて聞き取れない。とにかく邪魔らしい。
石原に電話をかける。「プリ・・・」と0.8秒で聞き取れないまま切られる。
しかし再度、竜一に電話する。不通。
再度、石原に電話する。不通。
仕方なく、ベンチに座り込む。
はぁー大きなため息をつく。
疲れた―。
服を着たままの救出は危険だと聞いたことがある。
海じゃなく池だから大丈夫だったのだろう。
疲れた全身はベンチに依存している。
身体の中の血液は急な運動でまだ沸騰している。
そよ風が気持ちいい。
雲が流れていく。
ゆっくりゆっくりと。
おれは何してんだ。こんなとこで。
最南端の島うちなー。
晴々と白い雲と水色の空。
緑の自然。
ああ、ちっぽけだ。俺。
「ははははは・・・」
笑いがこみあげてきた。
「ははははーぁーー」
忘れているなぁ。遊び心ってやつを。
そんな気がした。
しばらくすると石原から電話がかかってきた。
どうしたらいいのか事情を説明すると
大体の場所わかったから捨てておけ、後1番組テレビ見たら拾いに行くと言われた。
そういうわけにも行かないので、車に戻り、タオルを取り、水道で顔を洗い髪を拭く。
1時間後、石原到着。
車に智成を面倒くさそうに押し込む。
雲が流れていく。
ゆっくりゆっくりと。
どこかで焦っている僕らを置いて。
2時間ほど過ぎて・・・
「ん?んぁ?」智成はアパートの外の階段の登りきったとこで目が覚めた。
何があったんだ?寒いぞ??
「??」
携帯を見ると画面が付かなくて壊れていた。
「あれぇ?」
財布の札もシワくちゃだ。
「あれぇ??」
雲が流れていく。
ゆっくりゆっくりと。
大馬鹿な智成を置いて。

「5章4幕「竜一=英訳ファーストドラゴン?」小説「ボイスマン」」続く
posted by 麦畑 音子(むぎはた ねこ) at 15:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年05月28日

5章2幕「解散だ」小説「ボイスマン」

5章2幕「解散だ」小説「ボイスマン」
お断り※この話はフィクションです。現実世界での人に対しての誹謗中傷は一切お断りです。そのマナーが守れない人は読むのを禁じます。

第5章2幕「解散だ」

シャーロックヒュー主催
コザロックシアター「KRTゼロハチゴーヨン」
の後、舞台裏での出来事だ。
機材を無言で片付けて、ライブ会場を後にする間際、
石原が一言。
「解散だ」
おれは「お疲れ」と聞き間違ったと我が耳を疑い、
「おう、石原もお疲れ!今日はどこで打ち上げする?」
と答えた。
石原は少し眉間にしわを寄せた後呆れたように大きなため息をひとつついた。
「か・い・さ・ん・だ!!!」
「は?・・・は?」
ライブお疲れさまじゃないのか?
「大体貴様やる気ないだろ?
Speed Up 中途半端弾きだし。なんだあれは??」
「ちょちょっちょーと待ってよ。」
よし話をごまかそう。
「いい、石原ライブおおつかれ〜・・」
「途中でL&Dも演奏も歌も意味もわからなくなるし」
「ええ!でもあれはおれが悪いんじゃ・・」
「お前、ライブ前だというのに俺様のスタジオの誘いを減らしてコンパに行ったろ?(怒)」
ライブ後の石原は大半優しいが、まるで今回はライブ前のような殺気だ。
「・・・あれね。あれは楽しかった。よよ呼べばよかった??」
「うるさい。頭を冷やせ馬鹿」
そういうとあっという間に
石原は去った。Speed Upして車はどっかに消えてしまった。
・・・おい
・・・おーい
・・・おおーーい。石原ぁ〜
・・・返事がない。
・・・というか既に影も形もない。
石原の車は去った。
・・・
・・・
・・・orz
・・・
・・・orz×2
おぅ ベリースピードダウーン。
なんじゃこのオチは。
しばらく座り込んでポカリスエットを飲んでみた。
疲れた身体は少し回復した。
そうか、石原に今回ブッキングとか全部任せたから疲れてんだな。きっと。
よし、今月はバイト以外の週末は全部飲み会で埋めたから、今度誘ってやろう。
今日は一人で飲んでくるか。
・・・
「!」
そうだ。コンパのとき仲良くなったユキちゃんとマコちゃんに連絡してみよう。
一緒に飲もう。石原にもメールっと。
おれは携帯画面を急いで開いた。
〜こちら那覇某スタジオ〜
「私情で本当にすまないが、Wizは解散しよう」
スタジオ練習し終えた後、DAIが思いつめたように言った。
突然の発言にメンバーがキョトンとする中、
「もう一度言ってみろDAI」
竜一が少しイラッとした声で聞き返した。
伏せ目がちのDAIが顔を上げる
「本当にすまん」
「理由を聞かせてもらう。それでもしお前が抜けるにしてもWizが解散するかしないかは残りのメンバーで決める」
「だからお前がいなくなったからイコール解散じゃねえ。お前は脱退だ」
「・・・すまん。言葉を誤った」
メンバーの見守る中、DAIは少し目を瞑(つぶ)ってゆっくりと目を開けて話し始めた。
「俺は好きな音楽をしたかった。今までスタッフのことも考えてこなかった。俺の力だと思っていた。しかし今機材の差というものを痛感している。改めて、冷静に考えて、これでは売り物にならない」
「イイもんは音が多少雑でもイイもんだ。それがインディーズだ」
「お金を払う客はそうは見ないし俺は納得がいかない。。LIVEで爆音に誤魔化しているのはCDになるとしょぼい。間違っているか。インディーズと言ったがお前はプロを目指しているんじゃなかったのか?」
「今はインディーズだ。会社様が出してもらえるプロとは違う。機材は後から付いてくる」
「それは言い訳だ」
「じゃあン百万とかの機材揃えたもん勝ちかよ!」
「違う」
「じゃあ何だよ??」
「技術も機材も両方必要だ」
「・・・クッ」
「今の奴らはメロディにはうとくなってきているが音質に関しては耳が肥えすぎている。そういう時代の背景を無視してはプロにはなれない。」
DAIは真剣だ。
「・・・すまん。話が違う方向に行ってしまった。音質が大切なのが脱退しようという理由じゃない。失礼なのは承知で俺の話を聞いてくれないか。」
メンバーはDAIを認めていた。WizはDAIだけでなくみんなで認め合っていた。だからメンバーは全員黙ってDAIの話を聞いた。
「俺は自分の音楽を知りたい。見たい。聴きたい。バンドの音楽をすればもちろん俺のギターは入る。しかし、それはメンバー全員の色が入った曲になる。それがWizでありそれは凄いパワーを持つ」
「俺は俺がどれ位の存在なのか知りたい。ちやほやされて自分を見失っているのか。それともそれが等身のDAIなのか。ふわふわしたなか生きていくのは辛い。俺は本当は、どれ位のミュージシャンなんだ?」
若いうちに名声を得ると尺度がしっかりしないが故に見失うのが人間なのかもしれない。
「俺はWizメンバーが大切だ」
「だったら・・・」
誰かが言いかけた。しかしDAIはそのまま話続けた。
「Wizと同じくらい大切な音楽の約束をしていたのを忘れていた。その人にとっても俺にとっても大事な約束だったはずなのに・・・」
「インディーズに戻ることしか頭になかったから、Wizのみんなに会えたから、しばらく忘れていた。先約がいたんだ」
「忘れるならその程度さ」
「違う!・・・と思う。ただ・・・とにかく大切な約束なんだよ・・・わかってくれ」
「Wizが俺を一人の人間として認めてくれて嬉しかった。でもその前に彷徨っていた俺を救ってくれた女性ボーカルがいたんだ」
「その人の音楽会社との契約が終了する。年内に」
「もしその人がまだ歌うことを望んでいるのなら、すぐ動けるように俺は曲を作らないといけないし、作りたい。全力で俺のできることをその人の曲につぎ込みたい」
しばしの沈黙が流れた。どれ位の時間がたったのだろう。
「時間も期間も約束できない。こんな中途半端な気持ちでWizにはいれない」
竜一がわざと沈黙を壊すように
「惚れたか?」
DAIの顔が赤くなる。
「いや、そういうんじゃなくて、あの、その・・・」
俯(うつむ)いてしまった。
わかったとばかりに竜一が動いた。
「女の為に曲を書くのもかっこいいじゃねーかー!!俯いてねーで堂々と胸を張れや!!世話になったんならキチッと恩を返してこそ男だろうがよ!そんなことぐちぐちと俺は引きずらねーよ!!」
竜一が拳に力を込める。
「DAI!腹に力を入れろ!これがWizからの、俺からのお前の餞別(せんべつ)だ!かっこいいギター弾いてこい!そして世間をその女を驚かせてやれ!わかったな!」
DAIが反射的に逃げる。
「えええ!無理無理!竜一のボディーブロー無理に決まっているだろう!!」
と言った後、DAIはしばらく考える。
両腕を頭に組んだ後、腹筋に力を入れる。
「さぁ来い!竜一!!」
竜一の口元が少しだけ上がった。
ゴスッ悪魔のボディーブローがDAIの細い身体にめり込む。
俺らの悔しさと、お前を応援する想いを持ってけや!!きっとそう言いたいんだ。
うぅうぅー
DAIは悶絶して倒れこんだ。意識ははっきりしているが、しばらく唸(うな)るしかなかった。
身体なんてギターを弾くためにあるのであって、格闘技なんて縁遠いDAI身体は悲鳴を上げて当然だ。
「すまんな。手加減したらメンバーにも失礼だからな。でもこれで俺らと後腐れ無しな。」
「・・・おおぅ」
DAIは唸り声だかわからない声で返事をした。
顔や腕はギタリストとしてミュージシャンとして必要な個所だ。だからあえて腹にしたのをDAIは気付いていた。
「大丈夫か?」他のメンバーが声をかけて手を差し伸べてくれた。
「おれ、頑張るから」
DAIはそう言った。
このバカがつくような真っすぐさと素直さがWizのメンバーの良いところかもしれない。

それから数日後、DAIはWiz主催ライブ「Symmetry paturn R」を最後にWizメンバーを脱退した。

5章3幕「Park Fight 切上 VS DAI」へ続く

posted by 麦畑 音子(むぎはた ねこ) at 01:20| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする